『密会・セレブと呼ばれた女―栄光と欲望の裏側―』<第7話>

『密会・セレブと呼ばれた女―栄光と欲望の裏側―』<第7話>

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やがてパーティの日がやって来た。

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遥香
「今日はよろしくお願いね。主賓は私の夫なの。誕生日なのよ」

 

準備のため、早めに屋敷を訪ねると、美しく着飾った遥香さんが出迎えてくれる。

 

真野
「……加々美社長のお誕生日なんですか。それはおめでとうございます」

 

そつなく受け答えする真野さんに、私も慌てて頭を下げる。

 

遥香
「じゃあ、もうすぐお客様が見えるから、それまでに準備をお願い」

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遥香
「玄関のチャイムが鳴ったらモニターで相手を確認して、ロックを解除してちょうだい」

遥香
「パーティが始まったら、お料理とお酒はふんだんに出して」

遥香
「キッチンにあるものなら、何を使ってもかまわないわ」

 

そう言い残すと、遥香さんはメイクを直してくると部屋に戻って行った。

 

真野
「この前はなんだか険悪な雰囲気だったのに、旦那の誕生日パーティなんかやるんだな」

 

肩をすくめた真野さんと、パーティの準備に取り掛かる。

やがて、玄関からチャイムの音がした。


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ジュエリー・カガミの社長の誕生日というだけあって、招待客はセレブばかりだった。

 

紗希
「今来たのって、この前ドラマで主演してた俳優だよね?」

真野
「ああ。そういえば、ジュエリーカガミがスポンサーになってたな」

紗希
「わ、今来た人って、有名なデザイナーじゃない?」

 

有名人や著名人を間近にして、私は驚きっぱなしだった。

そんな招待客たちの間で、遥花さんはまるで大輪の花のようにふるまっている。

 

遥香
「お久しぶりです。今日は加々美のためにありがとうございます」

遥香
「今日は楽しんで行ってくださいね」

 

一方、加々美社長はカジュアルな私服でお客さんと談笑している。

リラックスしたシャツとパンツ。けれどどちらも、数十万単位のお金がかかった装いだ。

 

加々美
「何もありませんがゆっくりして行って下さい。ああ、キミ……もう一本、シャンパンを持って来てくれないか」

紗希
「……かしこまりました」

 

言いつけられてキッチンに戻る。そこでは、真野さんがケータリングの容器を片付けていた。

 

真野
「何? オードブルならさっき持って行ったぜ?」

紗希
「ううん、シャンパンだって」

真野
「これで何本目だよ? 冷蔵庫いっぱいに入ってたの、全部ドンペリだろ?」

 

ケータリングのお料理もシャンパンも、どれも高価だけれど、手料理はひとつもない。

 

紗希
「……うん。でもさっき、ちょっと嫌なことを聞いちゃって」

真野
「……あ?」

 

ゴミをまとめる手を止めて、真野さんが顔を上げる。


真野
「何だよ、嫌なことって」

紗希
「旦那さんが遥香さんに、あの客は大事だからちゃんともてなせ、とか」

真野
「あっちの客はお前に気があるみたいだからせいぜいサービスしておけ、とか?」

紗希
「真野さん、どうして知ってるの?」

真野
「そのくらい俺だって気が付くって。だけど、それがどうかしたのか?」

紗希
「だって……」

 

お客さんの見えないところで、加々美社長から指示が飛ぶ。

道具のように使われながら、遥香さんは文句ひとつ言わない。

それを見ているうちに、なんとなく寒々しい思いになった。

 

真野
「なんだ、そんなことかよ。いくらプライベートのパーティって言ったって、結局は損得勘定だろ」

真野
「別に加々美が特別なわけじゃない。みんなが顔色を窺って、互いに腹の探り合いさ」

紗希
「そうなんだ……」

 

職業柄、有名人の裏表など嫌というほど見ているのか、真野さんはあっさりしたものだ。

 

真野
「もしかして、セレブの現実を見て失望したとか? けっこう純粋なんだな」

 

目を丸くしてつぶやいた真野さんに、私は……。

 

紗希
「世界が違うなと思って」

真野
「ま、確かにそうだよな」

 

またからかわれると思っていた私は、あっさり同意されて拍子抜けしてしまう。

 

真野
「確かに一般人とは感覚が違う。あんたは間違ってないと思うぜ」

真野
「宝石のブランドもモデルの仕事も、イメージが大事だからな」

真野
「だから俺、あのイベントの時にも言ったはずだぜ。こんなの、しょせん作られたイメージだ、って」

紗希
(あ……そうだ。記者会見で、加々美社長が登場した時……)


真野
「あんなの作られたイメージだろ? しょせん旦那のお飾りだし」

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その時のことを思い出していると、真野さんがくすっと笑う。

 

真野
「思い出したか?」

紗希
「うん。あの時もそう言ってたよね」

真野
「じゃあ、その時に俺が言ったことも覚えてるか?」

紗希
「……え?」

真野
「だから加々美遥香なんか俺のタイプじゃないって」

真野
「俺は紗希の方が好みだって、本気で言ったんだけど?」

紗希
「そんなこと、言ってたっけ?」

 

はぐらかしながらも、はっきりと思い出していた。真顔で見つめられて急に恥ずかしくなる。

 

紗希
「そうだ、私……シャンパンを頼まれてたんだ!」

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シャンパンのボトルをアイスバケツに入れてリビングに運ぶ。その時、玄関のチャイムが鳴った。

 

紗希
(またお客さんが来たのかな?)

 

けれどその場にいる誰もがパーティに夢中で、玄関に出て行く様子はない。

急いでインターフォンで対応すると、この場には不釣り合いな、庶民的な女性が立っていた。


紗希
「あの……どちら様でしょう?」

女性
「週刊ビューティ・スタイルの者です。パーティの件で、取材のアポイントをいただいているんですが」

真野
「どうかしたのか?」

 

横から覗き込んできた真野さんに事情を説明する。

 

真野
「パーティの取材? そんな話、していたか? 一応、確認した方がいい」

 

そう言われて、近くにいた加々美社長に声をかけた。

 

紗希
「女性雑誌の取材という方がお見えなんですが」

加々美
「女性誌の取材なら、きっと遥香が呼んだんだろう」

 

お酒が回りはじめた声で機嫌よく言われてロックを解除した。真野さんと一緒に玄関に出る。

 

紗希
「いらっしゃいませ。取材ということですが、どのような……」

女性
「加々美遥花に用があるの。今すぐここに呼んで!」

真野
「………っ?」

 

強い口調に、ただならない気配を感じた。

 

女性
「いるんでしょう? 出てこないならちょっとお邪魔させてもらうわ」

真野
「お、おい、ちょっと……」

 

止めに入った真野さんを押しのけるようにして相手は奥へ進もうとする。

 

真野
「あんた、一体何なんだ? 他にも客がいるんだぞ」

女性
「いいからそこをどきなさいよ!」

 

玄関先で押し問答をしていると、背中で声がした。

 

遥香
「一体何を騒いでいるの?」

 

振り向くと、遥香さんが立っている。

 

真野
「この人、女性雑誌の取材だって言ってるけど?」

 

平然と告げた真野さんとは裏腹に、女性が声を荒げる。

 

女性
「遥香さん!  あなただけ逃げるなんて卑怯よ!」

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