『密会・セレブと呼ばれた女―栄光と欲望の裏側―』<第3話>

『密会・セレブと呼ばれた女―栄光と欲望の裏側―』<第3話>

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思った通りだ、という真野さんの言葉にハッとして目を凝らす。

見ると、深く帽子をかぶり、サングラスで顔を隠した加々美遥香の姿があった。

 

真野
「相手の顔が撮れれば、高く売れるかもしれないな」

 

物陰に隠れて様子を伺いながら、腰に巻いていたバッグからカメラを取り出す。

……と、同時に、1台の乗用車が彼女の前に滑り込んできた。

停まった車のドアが、内側から開く。

 

紗希
(男の人……?)

真野
「………!」

 

遥香さんが人目をはばかるようにして車の助手席に乗り込む。

カメラをかまえた真野さんがすかさずシャッターを切る。

カメラのシャッター音がたてつづけに響いた。

 

紗希
(旦那さんを残して他の人の車に? それにさっきの電話の様子も気になるし……)

 

何だかいやな胸騒ぎがする。

目の前で起きていることが信じられなくて、茫然と走り去る車を見送った。

 

真野
「んー……ちょっと相手の男の顔が見づらいけど、まぁいいか」

 

その場に不釣り合いな、のほほんとした声がする。

 

真野
「加々美遥香の自宅でやるっていうパーティに潜り込めば、また何か撮れるだろ」

紗希
「真野さん、もしかしてそれが目的で、あんなにあっさり快諾したの?」

真野
「当たり前だろ。他に何があるんだよ」

紗希
「…………」

真野
「電話の件も気になるが、旦那との間もぎくしゃくしてるみたいだし、他の男もいる」

真野
「こんなにいろいろ出てくるとは思わなかったな」

紗希
「…………」

真野
「せっかく自宅に招待してもらったんだ。そんなチャンス、絶対に逃すわけにいかないだろ」

真野
「ここまで来たら、必ずシッポをつかんで、どデカいスクープをモノにしてやるからな」

 

がぜん乗り気になっている真野さんを、私はため息をつきたい気持ちで眺めていた。


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真野さんと別れた帰り道。私は派遣の事務所に連絡を入れた。

 

紗希
「実は、今日の講演主から直接仕事を頼まれてしまいまして」

紗希
「自宅でやるパーティのお手伝いをしてほしいって言われたんですけど」

佐倉
「パーティのお手伝い、ですか……」

 

遥香さんから依頼されたことを伝えると、電話の向こうから佐倉さんの困った声がした。

 

佐倉
「今日のクライアントは、確かジュエリー・カガミでしたよね」

佐倉
「ただ、会社を通すとなると、契約書なんかがいろいろ必要になるんです」

紗希
(あ、そうか……)

紗希
「どうしたらいいでしょうか」

 

すると佐倉さんは、かすかに声を低くする。

 

佐倉
「今からどこかで会えますか?」

紗希
「……え?」

佐倉
「会社の中ではちょっと……話しづらいことなので……」

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承諾して電話を切った後、事務所から少し離れた場所にあるカフェで待ち合わせをした。

 

佐倉
「わざわざ来てもらってすみません」

紗希
「いえ、こちらこそ……」

 

互いに頭を下げてから、向かい合わせに座る。

 

佐倉
「……さっきもお話しましたけど、会社を通すとなるといろいろ手続きが必要なんです」

佐倉
「私が先方にご挨拶に行くのは構わないんですが」

佐倉
「個人的なお手伝いとしてお話されたのなら、会社は関係ないですし」

紗希
(そうだよね。そんなに大げさにする必要もないと思うし)

紗希
「じゃあ、どうしたら……」

佐倉
「吉岡さんが個人的に請けたお話ですから、僕は聞かなかったことにします。ただ……」

佐倉
「見ず知らずのお宅にお邪魔するなんて、吉岡さん一人で大丈夫ですか?」

 

心配そうに聞かれて、私は……。


紗希
「真野さんがいるので大丈夫だと思います」

佐倉
「……真野さん?」

 

驚いた顔で聞き返されて、返事に迷う。

 

紗希
(どうしよう、私……つい……)

紗希
「ええと、真野さんっていうのは……今日、会場で一緒になった関係者の方で……」

紗希
「その人も一緒にお手伝いに行くと思うんです」

 

苦しいけれど、嘘はついていない。

 

佐倉
「そうですか。誰かが一緒なら安心ですが……何かあったらいつでも連絡して下さいね」

 

話すうちに、佐倉さんがふと思い出したようにつぶやく。

 

佐倉
「その様子なら、この前のことは大丈夫みたいですね」

紗希
「……え?」

 

聞き返してから思い出す。

 

紗希
(そっか、この前の交通事故のこと……)

佐倉
「……すみません。忘れかけていたのに、思い出させてしまったみたいですね」

紗希
「いえ、大丈夫です」

佐倉
「本当ですか? 吉岡さんは一人で頑張るところがあるから……」

紗希
(……え?)

佐倉
「この前のお仕事でも一度も電話が来ませんでしたので」

紗希
「それは……とくに問題がなかったからで……」

佐倉
「それが本当ならいいんですが、無理しているんじゃないかとたまに心配になります」

佐倉
「困ったことがあったら、何でも話してください。あ……僕でよかったら、ですが……」

佐倉
「文句でも不満でも、何でも言ってくれてかまいませんから」

 

熱心な口調に不思議な気持ちになる。

 

紗希
(ただの派遣会社の担当者だと思ってたけど……)

紗希
(仕事以外でもこんなふうに言ってくれるなんて、佐倉さんってすごくいい人なのかも)

紗希
「ありがとうございます。でも大丈夫です」

紗希
「無理もしていませんし、仕事をしていた方が気も紛れますから」

 

心配そうな佐倉さんに、微笑みで答えた。

 

佐倉
「そうですか。それならいいんですが……じゃあ何か召し上がって行きますか?」

佐倉
「ここのケーキ、けっこうおいしいそうですよ」

 

改めて、席に腰を落ち着けた佐倉さんがメニューを取り上げる。

その時、佐倉さんのポケットで携帯が鳴った。

 

佐倉
「すみません、ちょっと失礼します」

 

一言、断ってから小声で電話に出る。

 

佐倉
「はい……キャリア・ワークスの……ああ、あの時の刑事さんですか」

佐倉
「……えっ? それは本当ですか!?」

紗希
(刑事さんって、あの事件の!?)

 

急に大きくなった声に、ビクッと体をすくませる。

店中の視線が集まる中で、佐倉さんがホッとしたように告げた。

 

佐倉
「ひき逃げの犯人が捕まった……?」

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