『密会・セレブと呼ばれた女―栄光と欲望の裏側―』<第6話>

『密会・セレブと呼ばれた女―栄光と欲望の裏側―』<第6話>

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人気モデルと実業家が暮らす加々美邸

その玄関に一歩足を踏み入れたとたん、目を疑うような光景が広がっていた。

 

紗希
(何これ……ゴミ屋敷!?)

真野
「いくらなんでも……これはひど過ぎるだろ……」

 

広いはずの玄関は、脱ぎ散らかされたパンプスやブーツが山積みで、

その隙間に男物の革靴やダイレクトメール、傘やスリッパが見え隠れしている。

際にはゴルフバッグ、車の部品のようなもの、ほこりが積もった雑誌や新聞紙……。

その周りには圧倒的な量のゴミ、ゴミ、ゴミ……。

 

真野
「どこで靴を脱いで上がればいいんだ? そもそも靴は脱がなきゃいけないのか?」

 

真野さんがつぶやくのももっともで、

元々はフローリングだったと思われる床は黒ずみ、足の踏み場もないくらい、モノが散乱している。

 

紗希
(これが加々美遥香の自宅?)

紗希
「嘘でしょ……」

 

思わず漏らした声に、真野さんがため息でうなずく。

 

真野
「……だよな。それにこんな家でパーティしようなんて、どうかしてる」

 

茫然とその場に立ち尽くしていると、奥から軽い足音が近づいてきた。


遥香
「どうぞ上がって。遠慮しなくていいのよ」

真野
「はあ……」

 

ためらう私たちに、遥香さんがあたりを見回す。

 

遥香
「ああ、これ……ね。この前来たメイドが辞めちゃったのよ」

遥香
「ちょっと散らかってるけど、気にしないでちょうだい」

 

一目でサロン仕上げだとわかるネイルで、髪をかき上げながら肩をすくめる。

 

真野
「気にするなって言われても……」

 

真野さんのつぶやきは、遥香さんには届かなかったらしい。

 

遥香
「でも、このままじゃパーティができないでしょう?」

遥香
「だから玄関ホールからリビングまで、適当に片づけてもらいたいの」

 

メイクをしていなくても、その肌は充分すぎるほどつややかで、目を見張るほど美しい。

その白さに、私は思わず目を奪われる。

 

紗希
(よっぽど丁寧にお手入れしないと、あんな風にはならないよ……)

 

きっと手間もお金も、びっくりするくらいかかっているんだろう。

 

紗希
(それに比べてこの家……どうなってるの?)

遥香
「お金はいくらでも払うから……お願いね。じゃあ私、そろそろ支度して出かけるから」

 

愕然とする私の前で、遥香さんが行きかけていた足を止める。

 

遥香
「そうだ。キッチンにある給湯のパネルは切らないでね」

遥香
「撮影に行く前にシャワーを浴びたいのよ。じゃあ、よろしくね」

 

言いたいことだけ告げると、遥香さんは奥の部屋へと引き上げてしまう。

 

真野
「ちょっと散らかってるって状態じゃないだろ。ホントにこれを片付けるのか?」

紗希
「しっ、そんなこと言って、聞こえたらどうするの?」

真野
「大丈夫だって。今頃、着飾るのに必死だろ」

 

仕方なく、どちらからともなく片づけを始める。


真野
「モデルだなんてチヤホヤされて、きれいにしてても、実態はこんなもんか」

紗希
「まさか家の中がこんなだったなんて、私もびっくりだよ」

真野
「ま、おしゃれで洗練された加々美遥花の実態って考えたら、いいネタかもな」

 

ひき逃げ犯との関係を突き止めると息巻いていた勢いはどこへやら、真野さんの声はため息まじりだ。

そんな真野さんに、私は……。

 

紗希
「一緒にがんばろうよ。ふたりでやれば大丈夫だよ」

 

励ますつもりで微笑むと、真野さんも苦笑いでうなずいた。

 

真野
「……ここまで来たらやるしかないだろ」

真野
「加々美遥香のスクープを狙うつもりで、せいぜいがんばるよ」

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玄関からリビングへ、黙々と手を動かしてゴミを片付ける。

 

真野
「おい、紗希。これ……どう思う?」

 

怪訝そうな声に振り返ると、真野さんはちょうど新聞や雑誌をまとめているところだった。

 

紗希
「どう思うって、何が?」

真野
「この新聞の日付けだよ。ちょっと気にならないか?」

 

古新聞を指さす真野さんに、作業の手を止めて、紙面を覗き込んだ。

 

紗希
「この日付け、1か月くらい前だよね」

真野
「ああ。だが、毎日とっている経済新聞の他に、一般紙とスポーツ紙……」

真野
「この日付の分だけが何種類もあるんだ」

紗希
「本当だ。なんでだろう? 自分の記事でも載ったのかな? それとも何か広告を出したとか?」

 

ざっと見比べてみても、共通する事柄は見つけられそうにない。

 

真野
「ま、いいや。新聞なら、日付さえ覚えておけば後で調べることもできるか」

 

そういうと、真野さんは素早くメモを取り、古新聞の束を紐で縛りはじめる。

 

紗希
(日付か……)

 

真野さんの言葉に、私も新聞の日付を心の中にメモする。

 

真野
「さて……と。ゴミを全部片づけたら、あとは床を磨いて……」

紗希
「真野さんって、けっこうお掃除が上手なんだね」

真野
「このくらいできて普通だろ。俺はゴミ屋敷に住む趣味はないからな」

遥香
「あら、ずいぶんキレイになったのね」

真野
「……っ!」

 

真野さんが言いかけた時、遥香さんが顔を出した。


遥香
「これだけ片付けば、予定通りパーティもできそうね」

遥香
「じゃあこれ、当日のお客様のリスト」

 

ゴミ屋敷の女主人とは思えない微笑みと、招待客のリストを残して、遥香さんは出かけて行った。

 

紗希
(あんなにキレイな人が、こんなゴミ屋敷に住んでるなんて……)

紗希
(現実を知りたくなかったって言うか……夢が壊れたっていうか……)

 

複雑な気分で、招待客のリストに目を落とす。

 

真野
「うわ、すごいな。さすが、有名人ばっかりだ」

 

リストには、芸能人、アーティスト、デザイナーなど、そうそうたるメンバーの名前が書かれている。

 

真野
「もしあんなことになっていなかったら、あの多田悟志ってヤツもこの中にいたのかな」

 

あんなこと……事故の加害者になっていなければ……。

 

紗希
「どうかな。遥香さんと陰で付き合ってたなら、ここには来ないんじゃない?」

真野
「そういうこともあり得るか……」

真野
「ま、これから加々美遥花に張りつけば、他にも何か見えてくるかも知れないし」

真野
「パーティ当日が楽しみだな」

 

そう言うと、真野さんは意味ありげにニヤリと笑った。

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