【芦屋道顕の真夏の怪談(1)】霊力・妖術・呪術を使い過ぎると早死をする?(ページ3)

お盆じゃの。上京しているおぬしらの中には、田舎に帰省し親族と集まり、本家の古めかしい屋敷で魑魅魍魎に怯えながら過ごす者もおるじゃろう。わしも今年はすでに里帰りをして、パパとじいじから小遣いをもらい、地元の仲間と遊んでおるぞ。

さて、この時期仲間と集まると話題になるのは、やはり怪談、心霊写真がどうといった怪異にまつわるよもやま話。

その中から、これはと思った話を取り上げていくぞ。

■真夏の怪談(1)霊力・妖術・呪術を使い過ぎて早死した拝み屋の話

知り合いの祖父が、表稼業は普通の寺の住職だったものの、檀家もほとんど世代交代でいなくなり、預かっていた墓も墓じまいをする家が増え、葬儀もそれほど出ない……。

経済的に厳しい状況だったゆえ、その一族が元々やっていた、祈祷の受け付けを再開したのじゃ。

当初は良縁祈願や安産祈願、合格祈願といったポジティブな内容の祈祷のみを僧侶として受け付けておったそうじゃ。しかし、あるときからやはり、邪(よこしま)な思いに基づく依頼が持ち込まれるようになったそうだじゃ。

例えば、不倫相手を別れさせてほしい、商売敵を衰退させてほしい、恋敵に消えてほしい、姑に早く死んでほしい……。おぞましい内容も多く、人の死を願うようなものは全て断っていた。

しかし、相手の死を願う以外の依頼であれば、受けていたそうじゃ。たとえばある権力を巡っての争いで、ライバルを失脚させる、不倫相手の家庭生活を破綻させる等々。

ところが、あるときからその邪な依頼を受け付けていた住職は、悪夢を見るようになる。夢の中で、正体の分からぬ黒いものの渦に巻き込まれる夢だったそうじゃ。

住職はもしや、と思ったものの、悪夢を見るほかには体調にも変化がなく、怪しげな出来事も起きないゆえ、生活のためその後もどんな依頼でも受け続けたそうじゃ。

■「そのとき」は突然やってくる

けれど、やはり因果応報はあるようで……「そのとき」は突然にやってきたのじゃ。

ある年、数少ない檀家に頼まれた法事を終えた夜。住職の妻がトイレに目を覚まし、ふと隣を見ると布団に横たわる住職を、小さな赤黒い虫のようなものがウジャウジャと取り巻いているのが見えたそうじゃ。そして、その中の一匹と目が合うと、それは虫ではなく、小さいながらも角の生えた、妖鬼のようなものだったそうじゃ。

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しかし、住職の妻は己が寝ぼけているのかと思い、目をこすり今一度見ると、それらの姿は消えていた。そのため、やはり幻覚であろうと、気にせずにそのままトイレを済ますと眠ってしまったそうじゃ。

ところが翌朝、いつもならば妻よりも先に起きている住職が、いっこうに起きる気配がない。妻が起こそうと、布団に手をかけ、身体に触れると……。住職は既に息がなかったのだと。

すぐに救急車を呼び病院に運んだものの、蘇生することはなく、原因は心不全であったとのこと。それは、日本男性の平均寿命をはるかに下回る、早死と呼べる年齢での唐突な死であったのだと。
……直接的に、誰かの「死」を願うような行いはしていなかったとはいえ、実は妖術や呪術、霊能力を使い続ける者には、そういった力に頼らず生きる者に比べて、こういった突然の不可解な死を遂げることが多いようなのだ。

天の理を乱す行為を神仏が諌めるためなのか、魑魅魍魎の力を借りるため、知らず知らず己の命を差し出しているのか……。

いずれにせよ、やはり神仏の前に出たときに申し開きができぬような、誰かを貶めるための願いや祈祷は、してはいけないようじゃ。(芦屋道顕)

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<芦屋道顕の真夏の怪談シリーズ>

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