「それにしても、良かったわ。彼女の話なんて全然しないから。真央さんのように素敵
な彼女がいて、母さん嬉しい」
場の空気が和み会話が弾む。
誰も、私が彼女のフリをしているなんて気がついてなくて。
罪悪感は拭えないままで、だけどご両親やお姉さんとの会話を楽しんでる自分もいた
。
「あら、真央ちゃんも食器好きなの?」
「はい!お姉さんもですか?」
会話の内容はコロコロ変わる。天気の話をしたかと思えば仕事の話。
そうかと思えば今度は趣味の話。
どうやら、お姉さんは私と同じで食器を集めるのが趣味らしい。
思わぬ共通点を見つけ、私たちの会話に花が咲く。
「キッチン雑貨とかを眺めるのも好きなの」
「あ、私もですよ!」
「まぁ、真央ちゃんとは話があいそうね」
「はい!お姉さんとこんな話が出来るなんて嬉しいです」
「そんな堅苦しい呼び方しないでちょうだいよ。彩って呼んで」
彼女のフリだなんて自分の立場を忘れるほどに、話が盛り上がってしまう。
隣では涼介が苦笑していた。
「ずいぶん、話盛り上がってるね?」
「ふふ、ごめんなさいね。涼ちゃん放ったらかしにして」
「ま、いいけど。真央さ、もし休みの日とか都合ついたら姉さんと出かけてやってくれ
ない?」
「え?」
(さ、さすがにそれはマズい……。もし彩さんと二人で出かけたりなんかしてボロでも
出たら……)
なんて私が考えてる間にも、涼介と彩さんは出かける計画を練り始めている。
「姉さんさ、土日は基本的に暇なんだよ。旦那が出張で」
やけに「出張」を強調するような言い方。
彩さんを見ると、少し視線を伏せて静かにコーヒーを飲んだ。
「でも、やっぱり悪いわ。涼ちゃんたちだってデートしたいでしょ?」
「俺らは会社でも顔合わせてるし。な? 真央」
「っ!?」
ぐいっと頭を引き寄せられ、涼介の肩に乗せられてしまう。
お母さんは顔を赤らめて、お父さんは呆れて……彩さんは微笑してこちらを見た。
「涼ちゃん、真央ちゃんのことちゃんと幸せにしなさいよ?」
「もちろん。今はまだお互いに仕事が忙しいけど結婚も考えてるから」
「は!?」
「真央、驚きすぎ。この前だって結婚式場の案内もらってきたでしょ?」
「え!?あ、そ、そうだったね!」
慌てて話をあわせると、彩さんが柔らかな笑い声を漏らした。
「真央ちゃんておもしろいわね」
「うん、退屈しないよ。あ、そだ。せっかくだから連絡先交換しておけば?一緒に遊
びに行くなら知ってた方がいいだろうし」
一度は否定した彩さんだけど、この場で連絡先を交換しないのもなんとなく気まずく
て……私たちは互いの連絡先を教えあった。
「それじゃあ、そろそろ帰るとするか」
「ええ、そうね」
ご両親と彩さんはそのまま立ち上がり玄関へと向かった。
(と、とりあえず……今日のところはこれで誤魔化せたかな)