「まっさか姉さんも来るとは思わなかった」
両親たちを招き入れた涼介は上機嫌に笑いながら言った。
「ごめんなさいね、涼ちゃん。彼女がいるのに私までお邪魔しちゃって」
セミロングのその人は、どうやら涼介のお姉さんらしい。
確かに、整った顔立ちは涼介によく似て、美人な人だ。
「別にいいけど……ああ、もしかして旦那はいつもの出張?」
「うん、そう。いつもの」
(いつもの……?)
出張という言葉とセットで使うには違和感がる。
だけど、お姉さんも涼介も特に気にする素振りは見せずに会話を続けている。
私もその会話に合わせ、愛想笑いを浮かべていた。
「それで、涼介……そちらのお嬢さんとお付き合いをしているのかね」
ふいに、お父さんが会話を遮り私を見た。
反射的に背筋が伸びてしまう。
フリだと理解していても、緊張するものなのかと思いがけず笑いそうになてしまった。
「そう。同じ会社の西脇真央さん」
言いながら、涼介がトンっと私の背中を指で押した。
挨拶をしろという合図だろう。
「初めまして、涼介さんとお付き合いさせて頂いてます西脇真央です」
少し、声は震えていたかもしれないけど思った以上にスラスラでる言葉に私自身驚いた。
ご両親もお姉さんも、すっかり私が涼介の彼女だと信じ込んでいる。
若干の後ろめたさはあったものの、浜本さんとの関係を考えれば私はここで涼介の彼女を演じ続けなければいけない。
「ごめんなさいね、真央ちゃん。私までお邪魔して。今更の自己紹介になっちゃったけど、涼介の姉の彩です」
「あ……いえ、お姉さんにもお会いできて嬉しいです」
心にもない言葉がポンと出る私には嘘つきの素質があるんだ。
仮面のような笑顔を浮かべながら、自分の言葉に呆れていた。
(昨日、ちゃんと浜本さんに確認しておけばこんなことにはなってなかったんだよね……)
逃げ出したホテルの部屋を後悔した。
そう、昨日きちんと浜本さんが独身者であると確認できていれば悩むことだってなかったし、こうして涼介のマンションにいることもなかったのに。
むしろ、涼介を涼介と呼ぶこともなかった。
(はぁ……なんでこんなことになっちゃったんだろう)
笑顔を崩すことはなかったけれど、心の中はモヤモヤで埋め尽くされていた。
↑こちらのタイトルの目次は此方へ
↑その他のタイトルは此方へ