涼介のマンションに行った数日後。
ずっとメールのやりとりをしていた彩さんからランチの誘いがあった。
(涼介からはしばらく彼女のフリしろって言われてるし……)
彩さんとのメールは楽しい。周りの友達に食器集めが趣味なんて言っても「地味」の
一言で片付けられてきちゃったから。
(ランチかぁ、どうしようかな)
予定は無いし、彩さんとの会話も楽しい。
だけど、涼介のいない前で彼女のフリを続ける自信も無くて、ソファに体を預けなが
らメール画面を眺める。
と、着信画面へと切り替わった。
「うわ、また嫌なタイミングで……」
着信者は涼介。一息ついて、通話ボタンを押した。
『姉さんからランチに誘われたって?』
「なんで知ってるの」
『さっき相談があった。いきなり二人で会うのまずいかなって』
「まずいよね? だって彩さんは私のこと涼介の彼女だと思ってるわけだから」
『だから、彼女のフリしたまま会いなよ』
「でも……」
『姉さんの旦那は、今日も「出張」らしいからさ』
まただ。また、涼介は「出張」を強調した。
(出張に何があるの……?)
『俺とのことはあんまり聞かないように伝えておくから、ランチしてきてよ』
「大丈夫かな……」
『大丈夫。姉さん、寂しいだけだからさ。会って、真央と話すだけでも気晴らしになる
と思うから』
「ねえ、あの……彩さんの旦那さんてそんなに出張ばっかりなの?」
『そう。週末は基本的に』
電話口の声はどこか他人事。
(彩さんの旦那さんとは仲良くないのかな?)
涼介と彩さんは姉と弟の割には仲良く見えるから、自然と旦那さんとも仲が良いと勝
手に思い込んでいたけど……。
どうもそんな感じはしない。
『あ、それとも都合悪いとか?例の彼から誘われてる?』
「っ!だ、だから浜本さんのことは何も言わないでってば」
『……ああ、誘われてないんだね?』
「浜本さんと会うのは、平日だけだから」
『へぇ、三年も付き合って平日しか会えないんだ?』
「だ、だから!彩さんとランチ行くから電話切るね」
涼介の言葉を聞く前に私はボタンを押して電話を終わりにした。
(彩さんにメール送っておこう……)
指はランチについてのメールなのに、頭の中には涼介の言葉がぐるぐると回り続けて
いるのだった。