『病院の花嫁~愛の選択~』<第7話>~松宮ルート~

『病院の花嫁~愛の選択~』<第7話>~松宮ルート~

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いざという時私が逃げられるようにと、こう君の提案で別々に働いている。

こう君は町の小さな診療所、私は漁港に隣接する魚の加工場で働き始めて二週間が経つ。

体を動かすのは好きだ。

従業員は温かく親切で、毎日楽しい。

でも、私は看護師の仕事が好き。

以前のように、患者さんと触れ合いたい。

落ち着いて暮せるまでの辛抱とこう君は言うけれど、そんな日は来ない気がする。

そんな事をぼんやり考えていたら、智子さんが声をかけてきた。

智子さんは二人の子供を持つ30代半ばのシングルマザー。

面倒見が良く、頼りになる姐御肌だ。

 

智子
「昨日、子供を風邪で診療所に連れてったら、あんたの彼氏おってびっくりしたんよ」

 

診療所が休みの日は、こう君が迎えに来るので職場の人と顔見知りになっていた。

小さな町なので、一緒に暮らしているのも知られている。

 

智子
「別のお医者さんが診察したんやけど…熱下がらんくて。
容体変わらなけえれば大きな病院行った方がいいって心配してくれて、優しい人やね」

美咲
(そう、あんな優しい人はいない)

智子
「彼氏がお医者さんなら、働く必要ないのに」

 

私は、曖昧に笑ってごまかした。

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惣一朗
「どういうことだ!」

 

惣一朗は、芳恵に週刊誌を叩きつけてつめ寄った。

小児難病センターの設立を始め、最先端の医療技術を誇り海外セレブが人間ドッグに押し寄せる病院として

立川病院は、マスコミに取り上げられるようになっていた。

理事長である芳恵は『信頼関係』をテーマに語り、『患者は家族、寄り添う医療』が、院長の方針。

スタッフは家族同然と考えている。

そんなアットホームな院内で、悲しい事件が起こった。

若い脳外科医が、病院の物品を私物化し、様々な不正を行ったと語っていた。

 

芳恵
「とことん追い詰めるのよ」

惣一朗
「だからって、こんな嘘」

芳恵
「うちは立川病院よ、嘘も本当にできる力があるのよ」

惣一朗
「無茶苦茶だ」

芳恵
「無茶苦茶な事したのはあの女でしょ!」

惣一朗
「僕らが何も悪くないのか!母さんも鈴恵も、美咲を追い詰めた。そして、僕は……無関心だった」

芳恵
「何てお人好しなの!そんな事じゃ病院の跡継ぎとしてやっていけないわよ。
お父さん、不整脈で心臓の具合が良くないのよ、いつあなたの番になるか」

惣一郎
「縁起でもないこと言うな!」

芳恵
「この頃、前にも増して無表情で愛想がないし。腕がいいだけじゃやっていけないわよ」

惣一郎
「僕は医師の仕事が好きだ!経営に興味はない!」

 

怒って出ていく惣一郎をみて、芳恵はつぶやいた。

 

芳恵
「あの子がやる気でないのは、あの女がいないからだわ……
不本意だけど、飽きるまでの辛抱ね。早く取り戻さないと」


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美咲
「わぁ、今日もごちそう」

 

小さなキッチンもある休憩室。

大鍋に、カニ汁、とれたての魚で作ったお刺身や焼き魚。

傷がつき売り物にならない魚介類が、今日のお昼のまかない。

従業員は皆、ここのお昼を毎日楽しみにしている。

 

美咲
「おいしい、あったまる」

智子
「朝早くて仕事キツイけど、
これがあるから辞められないのよね、残った分は持ち帰れるし」

 

智子さんのお子さんは、中学一年と小学5年生の男の子が二人。

育ちざかりだから、大変だろう。

 

智子
「そういや、あんたもよく持ち帰ってるね」

美咲
「美味しいし、食費助かるから」

智子
「お金、困ってないでしょ。あ、もしかして、開業とか?」

 

この町で一番親しくなった智子さんだけど

『いつ別の場所に移り住むか分からないから』なんてとても言えない。

 

美咲
「えぇ、まぁ……」

智子
「えぇね、いい男の上に甲斐性あって!この医者と大違いね」

 

智子さんは、週刊誌を開いて見せた。

その記事をみて、息をのんだ。

芳恵が立川病院について語っている。

若い脳外科医の不正の数々……。

 

美咲
(こう君のことだ!)

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松宮
「事実じゃないから、捕まっても話せば分かってくれるよ」

美咲
「お義母さまは恐ろしい人なの、何をするか分からないわ」

 

離ればなれになる辛さより、愛する人が無実の罪に問われることの方が恐ろしい。

取り乱す私を、こう君は優しく抱きしめた。

 

松宮
「二人で選んだ道だ。僕は幸せだよ」

美咲
「私もよ……」

松宮
「でも、こうなったら、ここも危ないかもしれない。
苦労かけるかもしれないけど、ついてきて欲しい所があるんだ」

 

この人と離れたくない、強くしがみついて答えた。

 

美咲
「あなたと一緒なら、どこへでも行くわ」

 

こう君が提案した場所に向かうために、私達はその日のうちに荷物をまとめた。


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車に少ない荷物をつめ、職場に向かった。

急に辞めることを深く謝罪すると、工場長が干物を沢山袋に詰め持たせてくれた。

 

工場長
「餞別だ」

美咲
「ありがとうございます」

 

本当にこの町はあたたかい。

短い間だったけど、一生忘れない。

 

美咲
「私、智子さんに挨拶がしたいわ。すぐ戻ってくるから」

松宮
「俺もあそこの家の子が気になってたんだ。
こないだ熱出しただろ?最後に様子見に行こうかな」

 

外で作業していた智子さんの元へ私と一緒にこう君もついて来る。

 

松宮
「智子さん、お子さんの様子はどうですか?」

智子
「熱さがらんくて…今朝、一回吐いたんよ。
看病したいけど休めなくて、午前中で仕事上がらしてもらって大きな病院連れてくよ。
こういう時、シングルはつらいね」

松宮
「吐いた? 頭痛がひどいと言ってましたよね?
顔色が悪いのも気になる……様子を見にいきましょう」

 

こう君の一言で、私達は智子さんの自宅に向かった。

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部屋に入ると、次男の卓也君が苦しげな荒い息で布団に横たわっていた。

意識がもうろうとしている。

 

智子
「卓也! 目あけて、卓也!なんで、診療所の先生はただの風邪って…!!」

美咲
「智子さん、ゆすらない方がいいわ!」

松宮
「髄膜炎か脳炎の可能性が高い。すぐ病院へ運ぼう!」

 

こう君の車に卓也君を乗せると、私達は急いで市立病院へ向かった。


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智子
「ありがとう、卓也の命の恩人だよ。あのまま働いていたらどうなっていたことか……」

 

泣き崩れる智子さんの体を支えた。

卓也くんは、髄膜炎を起こし危険な状態だった。

あと少し、病院に連れてくるのが遅かったら、助からなかったかもしれない。

 

松宮
「細菌性の髄膜炎なので、抗生物質が効けば容体は安定しますよ」

智子
「ほんとうに、ありがとう」

 

気のせいだろうか……。

診察した医師が、私とこう君の顔をやたらと見ている気がする。

智子さんについててあげたいが、この病院にも立川病院から連絡が入っているかもしれない。

長居はできない。

 

美咲
(逃げなくちゃ)

美咲
「ごめんなさい。私達、そろそろ行かないと」

智子
「落ち着いたら連絡して、どこに引っ越すの?」

美咲
「うん、南の方の…」

 

島の名前を言いかけ、ためらった。

立川家の人達や警察に私たちの居場所を聞かれたとしても、彼女は言わないだろう。

でも、場所を伝えると迷惑をかける可能性がある。

もう一生会えないかもしれない。

精一杯の笑顔を智子さんへ向けた。

何かを察したように、智子さんは手を握った。

 

智子
「何か事情ありそうやね。私はあんたらの味方だから何かあったら頼ってきて」

美咲
「ありがとう」

智子
「この恩は一生忘れない。ありがとう、元気でね」

 

智子さんは、泣きながら笑って見送ってくれた。

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本州の最南端の地方へ向かい、そこから一日に二本しか運航されないフェリーに乗って二時間

私たちは、住民500人足らずの離島に向かっていた。

その島の診療所では、こう君の大学時代の恩師・坂下医師が長年勤めている。

けれど、その坂下医師が病に倒れ、後任の医師が決まらず困っているらしい。

 

美咲
「坂下先生って、どんな方なの?」

 

ずっと都会暮らしをしていた私にとって、小さな島での生活は期待もあるが不安もある。

それに、優秀な脳外科医として知られるこう君の恩師がそんな離島に勤めているのが不思議だった。

 

松宮
「坂下先生は、俺が出会った医師の中で最も尊敬する人なんだ」

松宮
「坂下先生は国立の大学病院の第一線で活躍されていて教授として地位もあった」

松宮
「けど、48歳の時、大学病院を離れてこの島の診療所の医師になると言い出したんだ」

美咲
「48歳となると、これから偉くなっていくトコだったのね」

松宮
「そうだな…俺たちも先生が去るのを惜しんだんだけど」

松宮
「生涯、現役の医師でありたい。ってのが先生の口癖だった」

松宮
「デカい大学病院より、この小さな島が先生の医師師としての生きる道なんだろうな」

美咲
「医療のために、地位も名誉も捨てられる人なのね」

松宮
「ハハっ!そう言うと立派だけど結構な変わり者なんだ!」

 

恩師の話をするこう君は、まるで家族の話をするような気安さで

坂下先生を慕っていたのがよく分かった。

それに、どんなに素晴らしい人か想像もできる。

坂下先生が歩んだ道をこう君が誇りに思っていることも…。

でも、こう君に僅か29歳で同じ道を歩ませていいのだろうか……。

私の中に、ぬぐい去れない疑問がわいていた。


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こう君の恩師、坂下先生が、笑顔で迎えてくれた。

 

坂下
「じゃあ、頼むよ月岡義之くん」

美咲
「月岡?」

松宮
「今日から僕は、月岡義之だ」

 

伊達メガネをかけると、こう君は微笑んだ。

 

松宮
「君も、念のため名前を変えた方がいい」

美咲
「じゃあ、玲子」

 

私は月岡玲子と名のることにした。

坂下先生は、大腸がんのオペの為、本土の病院で治療を行う。

明日、島を離れる予定だ。

 

坂下
「1か月程、留守を頼むよ」

松宮
「任せてください」

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月岡義之、月岡玲子と名乗り、夫婦として診療所の隣の小さな平屋に住むことになった。

目の前に広がる夕陽に照らされる穏やかな海を、二人で見つめた。

 

松宮
「いい所だな」

美咲
「えぇ」

 

確かにいい所。

人は優しく、自然がきれいで、目の前にきれいな海が広がっている。

でも……。

美咲
(つい最近まで、医学の最先端で働いていた彼を、小さな島に閉じ込めるなるなんて…本当にいいの?)

 

お互い二度と離れられない程に、私達は深く結びついている。

でも、医師としての彼の将来を考えると……。

一緒にいてはいけない気がしてしまうのだ。

 

松宮
「誤解しないでほしい、無理してここに来たんじゃない」

 

私の中に渦巻く疑問に答えるように、こう君は語りだした。

 

松宮
「前から過疎地医療に興味があった、嘘じゃない。
だから、坂下先生とずっと連絡をとっていた。
確かに、脳神経の分野を極めたかったが、先生の側にいれば教えを仰げる」

 

こう君は、目を輝かせて語った。

 

松宮
「智子さんのお子さんを助けた時、はっきり認識したよ。
末端の医療ほど、取りこぼしてはいけない、重要なんだってね」

 

これは、こう君の本心だと確信できた。

 

松宮
「大学病院みたいな大きな病院には僕の変わりはいる。
だけど、こういう場所の医師の変わりは誰もができる訳じゃない、僕は医師として生きがいを見つけたんだ」

美咲
「私も患者さんと触れ合うのが生きがい。
そして、あなたのサポートをするのが私の生きがいよ」

 

惣一郎さんと結婚する時、家庭でも職場でも惣一郎さんの力になると家族の前で誓った。

今思えば、自らの心を騙し、納得させる行為だったように思う。

惣一郎さんの医師としての在り方を尊敬し優しさに惹かれたのは確かだ。

だから、いつかきっと夫として愛せる日がくる気がした。

だけど、彼は夫として私を守ってくれなかった。

あの家は、家族として迎え入れてくれなかった……。

あのまま我慢を続けあの家に居続けても、どんなに努力しても私が望む姿にはならなかっただろう。

何より、私はこの人に出会ってしまった。

一緒に過ごしてしまった。女の幸せを知ってしまった。

 

松宮
「一生、君を守る」

美咲
「私達、ここで幸せになれるのね」

松宮
「君を絶対に幸せにする、何があってもずっと一緒だ」

 

私達は、安住の地を見つけた。

水平線に沈む夕日が、私達を祝福するかのように輝いている。


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芳恵
「忌々しい、もう一息の所で」

 

この市立病院にも、立川病院からのメールが届いていた。

週刊誌の記事になった事も手伝い院内で話題になっていたので、治療にあたった医師が松宮に気付いたのだ。

 

医師
「知人が入院しています。かなり親しそうだし、何か知っているかもしれません」

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智子が卓也を看病している病室に、芳恵、惣一郎が入って来て声をかける。

 

芳恵
「美咲さんと親しかったらしいわね」

智子
「二週間程一緒に働いただけの職場の同僚です、特別な親しい訳じゃありません」

芳恵
「あの二人が向かった先を教えてくれたら、いくらか差し上げてもいいのよ」

惣一郎
「母さん、いきなり失礼だろ」

智子
「場所は知りませんが、船で北の方へ向かうと言ってました」

芳恵
「船で、北に?」

惣一郎
「そういえば、この近くの町から北海道行きのフェリーが出ている」

芳恵
「あの医者、1年ほど北海道の病院に勤めていたわよ」

惣一郎
「北海道か……調べてみよう」

芳恵
「あなた、お礼にここの入院費、支払っとくわ」

智子
「この程度のことで…結構です」

 

芳恵と惣一郎は、病室を後にした。

智子は胸をほっとなでおろす。

穏やかな寝息をたてる卓也の髪を撫でて呟いた。

 

智子
「あんたの命の恩人、守らないとね。それにしても、嫌なババア」

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いつ立川家の人が来るかと冷や冷やしていたが、穏やかに時は流れ……。

この島に赴任して半年が過ぎようとしていた。

午前中の診療が終わり、こう君が往診に行っている間に家事を片付けようと思うがめまいがして気分が悪い。

この頃、頻繁に頭痛もある。

 

美咲
(最近具合が良くないわ…安心して、溜まった疲れがでてきたのかしら)

 

少し休憩しようと診療所のベッドに横になっていると、数名の島民が駈け込んで来た。

 

島民
「玲子さん! 奥山さん家の奥さん、産気づいて」

美咲
「先生は往診中なの!すぐ連絡とって向かいます」


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破水をし、出血もひどい。診療所に運んでいては間に合わない。

こう君の判断で、奥山さん家の自宅でとりあげることにした。

医療実習の際、一通りのことを経験したといってもお産に関わるのは、こう君も私も初めてだ。

この半年、二人で医学書を読み様々なことを学んだ。

その一つがお産。

産婦人科も助産婦もいないこの島では

出産間際になると本土の病院に入院するのが。

旦那さんが漁で頭を強打し、そのオペをこう君が行ったことをきっかけに、久美さんは私達を信頼し、出産を委ねてくれた。

 

松宮
「頭がみえた!もう少しだよ、久美さん」

久美
「ううううっーーー……」

奥山
「頑張れ、久美」

 

旦那さんも横で手を握り応援している。

家の外では、久美さんの気を逸らさないように声をひそめ、島民が見守っている。

久美さんは私と同じ年。

三年前に結婚し、やっと授かった子供だ。

 

美咲
「久美さん、がんばって!」

赤ちゃん
「おぎゃああーー おぎゃあ…」

島民
「産まれた―!」

 

2890gの女の子が無事に産まれた。

島では出産は年に1、2人程度。

皆、本土の病院で出産するのでこの島で、誕生したのは実に十五年ぶりだった。

大切な命を私達の手で取りあげた充実感で胸がいっぱいになり、ホッとすると意識が遠のいていった……。

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目を開けると、心配そうにこう君が、のぞきこんでいた。

奥山さん家の夫婦も心配気に見つめている。

 

美咲
「ごめんなさい、私……」

松宮
「興奮のあまり気絶するなんて、看護師失格だぞ」

 

こう君の明るい言い方で緊張が解けたようにその場に笑い声が湧いた。

 

久美
「次は、月岡先生家の番ね」

 

久美さんは笑顔を浮かべ、産まれたばかりの赤ちゃんに授乳を始めた。

幸せそうな光景に、思わず笑みがこぼれる。

 

松宮
「明日、坂下先生の見舞いに行く。この頃、辛そうにしているだろう?一度、看てもらった方がいい」

美咲
「健康保険証がないし、実費は高額な医療費を支払わなければならないわ」

 

病院へ行くのを渋ると、こう君はいつになく厳しい口調で受診を勧めた。

後から思えば、こう君の医師としての勘がそうさせたのかもしれない……。


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美咲の担当医、井村がCT画像を見せると、浩太は絶句した。

 

松宮
「こんな場所に……」

井村
「画像をみる限り良性だと思われますが、オペは困難かと」

 

井村は既に、美咲が助かる可能性はほぼないと考えているようだった。

CT画像を暫く眺めた浩太が、意を決して口を開く。

 

松宮
「私が…執刀します」

井村
「何を…あなたは小さな離島の診療所の医者でしょう?
こんな難しい手術は……!」

松宮
「私の専門は脳神経外科です!」

井村
「そうだとしても、無理です!もし技術があったとしても、奥様ですよ?冷静にオペを進められるかどうか…!」

松宮
「訳あって、まだ妻では……先生、今から事情を説明します。
あなたの人柄を見込んでお話します」

井村
「…?」

 

浩太の深刻な表情に、井村は何がしかの事情があると察知する。

 

松宮
「井村先生、立川病院から何か聞いていませんか?」

井村
「立川病院?あぁ、最近何かと話題の。
そういえば、文書が来ていたな、ある医師の注意を促すような」

 

井村も浩太同様、坂下医師の教え子だった。

恩師から井村のことは真面目で誠実な腕の良い医師だと聞いている。

浩太は井村の人柄を信じ、全てを話して協力を得ようと考えた。

 

松宮
「私がその医師なんです……」

 

浩太は眼鏡を外すと、一部始終を語りだした。

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ニュース番組を観ながら、芳恵と鈴恵が語らう。

 

鈴恵
「もう半年経つわね、どこ行ったのかしら」

芳恵
「北海道全域、東北まで手を広げ探しているのに。どこに隠れたのやら、あの女狐」

鈴恵
「あーー、この男!」

 

TV画面を観ていた鈴恵が、絶叫する。

ニュース番組は、結婚詐欺事件を報じていた。

その犯人に、鈴恵は見覚えがあった。

ホストクラブで出会い、数回デートした圭吾だ。

 

鈴恵
「この男に、私、300万渡したわ。一緒に事業をやろうって持ちかけられて」

芳恵
「なんですって!まさか、ファッションの勉強をしたいって専門学校に行くお金?
私に嘘をついたの?」

鈴恵
「ごめんなさい、お母様。あの女のせいよ?」
だって私、松宮先生が好きだったのよ。あの女がいなかったら、私達上手くいっていたわ。こんな男に騙されなかった」

芳恵
「そうね、あなた達とてもお似合いだったのに」

鈴恵
「私が不幸になって、あの女が幸せなんて許せない」

芳恵
「徹底的に懲らしめてやるわ!」

鈴恵
「そうこなくっちゃ、お母様」

芳恵
「医者の世界は狭い。この職業を離れるとは思えない。
大学時代に遡って、警察に徹底的に調査させるわ」

 

とうとう芳恵は事件をでっちあげ、警察に被害届をだした。

そこには、芳恵のある悪巧みも隠れていた。


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松宮
「良性の脳腫瘍だが、病巣は広範囲にわたり深部に広がっている。困難なオペになると思う」

 

こう君は、悲痛な表情で私の病状を告げた。

今までの経緯を井村医師に話すと、協力を約束してくれた。

執刀医はこう君、医療費は事後清算でいいという。

 

松宮
「オペが終わったら立川病院へ行き、謝罪し、保険証をもらってくる、出来れば和解したいが」

美咲
「あの人達が、応じると思えないわ」

松宮
「それが叶わないなら、医療費全て実費で支払う覚悟だ」

美咲
「だめよ、私の為に…多額の借金を抱えることになるのよ」

 

こう君は、私を抱きしめた。

その手は、微かに震えていた。

 

松宮
「違う、自分のためだ!君がいないと、俺は生きていけない」

美咲
(私、生きたい……生きなきゃ、この人のために)

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明日は日曜。義父は学会で不在。

芳恵と惣一朗、鈴恵の三人での夕食の時間、芳恵は愉快そうに話を切り出した。

 

芳恵
「惣一郎、明日は予定ないわよね」

惣一郎
「はい」

芳恵
「鈴恵と私と三人で、旅行に行かない?」

惣一郎
「そんな気分じゃありません」

芳恵
「面白いものが見れるわよ?私達を侮辱した医師が逮捕され、あの女狐が絶望する場面をね」

惣一郎
「…どういう事ですか?」

 

芳恵は、松宮が病院の備品を持ち出した上に運営費を横領したと被害届を出した。

捜査の結果、大学の恩師の代わりに島の診療所に勤めていると突き止め明日、身柄を拘束されると説明した。

 

惣一郎
「そんな虚偽の事件でっちあげて、こっちが責任を問われますよ!?」

芳恵
「事件は事実なの、病院を大きくする為に色々入り用で……
病院のお金に手をつけたのよ。それを全て被ってもらうわ。迷惑かけた分、役に立ってもらわないと」

惣一郎
「正気ですか!」

芳恵
「どうやらあの女、重い病気らしいわよ」

鈴恵
「イヒッ、イヒヒ、ばちが当たったのよ」

惣一郎
「美咲が、病気……」

芳恵
「先が長くなさそうだし、あんな女もうどうでもいいでしょ」

惣一郎
「そう、だね……」

 

惣一郎は、静かに席を立った。

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あっという間の出来事だった。

警察がやってきて、こう君を連れて行ってしまった。

私はただ、「誤解です」と叫び、泣くしか出来なかった。

それを見て、芳恵と鈴恵さんは高らかに笑っていた。

 

美咲
(泣いていては、何も始まらない……あの人を救うのよ)

 

私は、ふらつく足で病室をあとにした。

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美咲
「警察…警察に行かないと、誤解を晴らさないと」

 

ふらついて、思うように歩けない。倒れそうになる私を、誰かの腕が支えた。

ふと、顔をあげると、惣一郎さんがいた。

 

美咲
「惣一郎さん……」

惣一郎
「担当医に病状は聞いた。うちの病院で治療しよう」

美咲
「誤解なの…!松宮先生を助けないと…
ごめんなさい、私が悪いの…ごめんなさい…!!だから、松宮先生を許して…!」

惣一郎
「あぁ、分かってる……」

 

惣一郎さんは、驚く程優しい表情で私を見つめて、うなずいた。
 

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