『病院の花嫁~愛の選択~』<第3話>

『病院の花嫁~愛の選択~』<第3話>

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一人っ子の私は、妹が出来たようで嬉しかった。

だけど、鈴恵さんにとって私は家政婦。

というより、奴隷のような存在だった。

 

鈴恵
「うちの家政婦なんだから私のハイヒール磨きなさいよ!」

美咲
「これ新品じゃあ?」

鈴恵
「口答えするなんて生意気!」

美咲
「きゃあ!」

 

靴に伸ばした私の手を、鈴恵さんのピンヒールが踏みつけた。

 

美咲
「痛い、やめて!」

鈴恵
「イヒッ、イヒヒッ」

 

手の甲には血が滲み、紫色の痣になっている。

 

美咲
「ひどいわ!」

鈴恵
「お母様は何でも私の言うことを聞いてくれるの。
あなたの父親の会社を潰すなんて簡単なんだから!」

鈴恵
「イヒッ、イヒヒ、逆らうと父親の会社の従業員路頭に迷うわよ。
ほら、棚の靴全部磨きなさい!」

美咲
「これ全部を?」

鈴恵
「また口答えしたわね!」

美咲
「痛いっ!」

鈴恵
「誰かに言ったらただじゃおかないから、早くおやり!」

 

膨大な量のお母様と鈴恵さんの靴。

ヒールで踏まれ腫れた左手は使えず、
片手だけで棚の靴を全部磨き終わると、夜は明けていた。

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仕事に没頭していると嫌な事が忘れられる。

ひと段落すると、激しい手の痛みを思い出した。

 

美咲
「利き手じゃなくて良かった……」

 

包帯をとるとひどく腫れていた。無理して動かし過ぎたようだ。

 

松宮
「その手どうした?顔色も悪いし元気がないな」

美咲
「何でもありません…」

松宮
「見せてみろ、腫れてるじゃないか!」

 

松宮先生が私の手を取った時、後方から鈴恵さんの声がした。

 

鈴恵
「相変わらず仲がよろしいのね。
お姉さま、人妻になった自覚をお持ちになったら?」

 

いつの間にか、惣一朗さんと鈴恵さんがそばにいた。

 

松宮
「立川先生…!奥さんが、手に酷い怪我を」

惣一朗
「それはお世話になりました。美咲、手当しようか」

鈴恵
「松宮先生、鈴恵、新しい靴を下ろしてウキウキしてるの!
どこか出かけたいわ」

松宮
「今日は夜勤が」

 

(やっぱりあの靴、新品だったのね……)

 

鈴恵
「じゃあ、中庭でお話ししましょ」

松宮
「……少しなら」

 

遠ざかって行く松宮先生と鈴恵さんの会話が気になって仕方がない。


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まとわりつく鈴恵を、煩わしそうに松宮がかわす。

 

鈴恵
「先生はどんな女性がタイプなの?」

松宮
「そういうのはあってないようなものです」

鈴恵
「一つくらいあるでしょ」

松宮
「頑張り屋な人かな」

鈴恵
「……お義姉さんみたいな?」

松宮
「立川先生の奥さんとは古い知り合いです。
そういう勘ぐりは立川先生夫婦に迷惑がかかりますので、止めていただきたいですね」

鈴恵
「冗談よ、そんな怖い顔しないで。
今日が無理なら日曜どこか出かけません?」

松宮
「はっきり言います。鈴恵さんのことはお世話になっている病院のお嬢さんとしか見れません」

鈴恵
「私はそんな意味で言ったんじゃ…!自惚れないでちょうだい!」

 

松宮の頬をピリャリと打って、鈴恵は、怒って帰ってしまった。

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惣一朗さんが、私の傷の手当をする。

こうやって向かい合うのは、久しぶりだった。

 

惣一朗
「どうしたんだ、この傷」

美咲
「靴を磨こうと手を伸ばしたところに、調度鈴恵さんが帰っていらして……」

惣一朗
「君は意外におっちょこちょいだって言ってたね」

 

笑う惣一郎さんを久しぶりに見た。

けれど、それはとても不自然な笑みで、胸がざわめく…

こんなに腫れているのに、嘘だって気付かないの?

私、明け方まで靴磨きしていたのよ。

それにも気付かなかったの?

手の怪我も、松宮先生は一目見て気付いてくれたのに……。

惣一郎さんに対する不信感を、この時ハッキリ認識した。

 

惣一朗
「君は結婚しても変わらないね」

美咲
「えっ?」

惣一朗
「皆に平等で優しい。そこに惹かれたのに、他の人と仲良く話すのを見ると不安になる」

惣一朗
「だから、さっきみたいな場面を見ても気にしないようにしてるよ」

 

松宮先生と話す時、私どこか浮かれていた。

気付かないうちに惣一朗さんを傷つけていたのかもしれない。

表情のない惣一郎さんを見て、さっき不信感を抱いた自分を攻めた。

 

美咲
「父の前で宣言した、家庭でも病院でも惣一朗さんを支える気持ちに偽りはありません」

惣一朗
「信じていいんだね」

美咲
「はい」

惣一朗
「今日の夕食には僕も親父も揃う。皆揃った場で話したい事があるんだ」

美咲
「どんな話なの?」

惣一朗
「帰ってから話すよ」

 

今教えてくれてもいいのに……。

一切目を合わせない惣一郎さん。
先ほどとは違う不安が胸に広がった。


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片手だけではテーブルセッティングが上手くできず、お義母さまに怒鳴られた。

 

芳恵
「嫁にもらってやったというのに、この怠け者!」

美咲
「すいません、左手を怪我して」

芳恵
「父親同様ごまかし上手ね!うちの病院の名を出して営業したのを追求したらあーだこうだ言い訳がましい!親子揃って寄生虫だわ!」

美咲
「終わりました、庭に行って食卓に活けるお花をとってきます」

芳恵
「惣一郎も惣一郎よ。一生懸命育てたのにお前みたいな女に騙されて、あぁ情けない」

 

お芳恵さんから逃れるように、庭に花を摘みに行った。

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豪華な室内から見える美しい庭。

傍から見ればとても幸せな光景が、余計に私の心を締めつける。

お母様が一番のお気に入りのバラを摘んできた。

 

美咲
「出来たわ」

 

古い花を捨てて、後は水やりをすれば終わり。

もうそろそろ惣一朗さんが帰ってくる。

早く帰って来て欲しい。

惣一朗さんのいる前では、お母様も鈴恵さんの意地悪も少しは治まるから……。

 

鈴恵
(幸せそうに花なんて活けてムカつく。怪我を利用して松宮先生の気をひきやがって!
まさかあの女、先生に私が怪我させたの話したのかもしれない。
くっそうぅーー、あのバラ全部ちぎってやる!!
イヒッ、ヒッヒヒヒ、イヒヒお母様、怒るわよ。ざまあみろ!)

 

鈴恵
「あの女の人生もこの花のように無茶苦茶になればいいのよ!」

鈴恵
(あぁ、こんな事じゃイライラが治まらない。久々にホストクラブにでも行くか。)

 

庭から戻ると、テーブルの上のバラが辺り一面に散らばっていた。

 

芳恵
「何てことしてくれたのっ!?」

美咲
「違います!私じゃ…!」

芳恵
「私が一番気に入ってるバラをこんなにして!」

 

鬼の形相でお義母さまは、花びらが全て散ったバラで、私の頬を打った。

 

美咲
「痛っ!」

 

頬を触った手に血が滲む。

この血のように、私の心にも何かがジワリと広がっていくのを感じた。

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テーブルを埋め尽くす豪華な食卓。

何を食べても味がしない。

 

芳恵
「本当気が利かない!!一から十まで指示しなきゃ主婦としての務めも果たさないのよ!
何をやらせても手が遅いし」

美咲
「すいません……」

 

惣一朗さん、手を怪我しているの知ってるじゃない。

どうして、何も言ってくれないの?

 

義父
「病院の仕事もあるのに良くやってるじゃないか」

芳恵
「惣一朗はこの女の何十倍も大変な仕事をしているの!
まだまだ力不足よ!」

惣一朗
「その話だけど……
実際僕の力になってもらう為、美咲にはオペ室に勤務してもらおうと思っています。主に僕のオペの担当に」

美咲
「オペ室!?」

 

ショックだった。

私の生き甲斐は、患者さんの傍で力になることだったのに…。

 

義父
「惣一郎…
美咲さんの良さは患者と触れ合ってこそじゃないかね」

惣一朗
「オペ室勤務は夜勤がありません。
僕は美咲の体の事も考え提案しているんです」

義父
「言われてみればそうだが…」

 

私の意見は誰も聞いてくれないの?

 

芳恵
「惣一朗の言う事はもっともだわ。勤務時間が少なくなれば、この家の嫁としての時間は長くなるわね」

 

この家にいる時間が長くなる……。

お母様が、ゾッとする顔で笑った。

 

芳恵
「もっともっと、この家の嫁として務めを果たしてもらわないとねぇ?」

 

その言葉の意味を想像して、私は身震いした。


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惣一朗さんと話し合いたくて、書斎に入った。

 

美咲
「どうして相談してくれないの?ずっと病棟や外来勤務だしオペ室勤務は不安だわ」

惣一朗
「すぐ覚えられるさ」

 

惣一朗さんは、医学書から目を離さない。

オペ室勤務について、話し合う気はなさそうだ。

だけど、この事は伝えないと。

 

美咲
(お願い…私がどれだけ傷ついているか気付いて、惣一朗さん)

美咲
「私だって、家族の一員よ」

惣一朗
「当たり前だろ」

美咲
「家族なら、私を傷つける事はしないはずよ」

惣一朗
「君は僕の妻、この家の嫁。家族だ。それで十分だろ」

美咲
「惣一朗さんはともかく、お義母さまは……」

惣一朗
「母はああいう性格だ。言わせたい事を言わせ聞き流しとくのが一番だ」

 

ずっと、我慢しろってこと?

惣一朗さんは医学書から目を離さない。

私の頬に傷があることも気づかない。

何を言っても無駄、頬の傷よりも胸が痛んだ。

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その頃、鈴恵は行きつけのホストクラブで大はしゃぎしていた。

 

ホストA
「最近来てくれないから寂しかったな」

鈴恵
「私を楽しませてくれたら、毎日でも来てあげるわ」

 

カウンターで静かに酒を飲むイケメンに、鈴恵の目に留まる。

 

鈴恵
「あの人は新人?」

ホストA
「うちの元従業員、今は青年実業家ってやつだよ」

 

鈴恵が、カウンターにいるイケメンに話しかける。

 

鈴恵
「初めまして」

圭悟
「初めまして、鈴恵さん」

鈴恵
「どうして私の名前を?」

圭悟
「この辺りでは有名ですよ、大病院のお嬢様なのに夜遊び好きってね」

鈴恵
「あまり良い噂じゃなさそうね」

圭悟
「IT企業を経営する藤崎圭吾と言います。初心に帰る為に時々ここに来るんです。
金を貯めて自分の会社を持つ夢を見ていた頃を思い出しにね。経営者は孤独ですから」

鈴恵
「立派ね、その若さで夢を叶えたんだから」

圭悟
「あなたと僕は似ていますね」

鈴恵
「似てる?」

圭悟
「内側に大きな孤独を抱えている。目を見れば分かります」

鈴恵
「……」

圭悟
「君なら分かり合える気がする。外でゆっくり話しませんか?」


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「鈴恵が帰って来ないの!」

 

お母様から内線電話が入り駆けつけると、惣一朗さんも呼び出されていた。

 

芳恵
「鈴恵の携帯繋がらないの!何かあったのよ」

惣一朗
「どこかで遊び呆けてるんだよ」

美咲
「でも、一晩経っても連絡がとれないなんて、心配よ」

芳恵
「警察に連絡しましょ」

鈴恵
「何を騒いでらっしゃるの」

美咲
「鈴恵さん!良かった、心配してたのよ」

 

鈴恵さんは、大きな欠伸をして私から目を逸らした。

 

鈴恵
「いい子ちゃんぶって、思ってもない事言わないで」

美咲
(本当に、心配していたのに……。)

芳恵
「携帯何度も鳴らしたのよ」

鈴恵
「昔の友達と会って盛り上がって、気付かなくて。ごめんなさい」

芳恵
「無事でホッとしたわ」

鈴恵
「私、事業を始めるわ、お母様!援助して欲しいの」

惣一朗
「いい加減にしろ。去年は語学留学すると言って遊んで帰って来ただろ!」

鈴恵
「お兄様にはこの病院があるじゃない!音楽の道を諦めてから私には何もないのよ!」

 

鈴恵さん、好きな道を諦めるのは辛かったはず。

だから、私に八つ当たりしているのかもしれない。

 

芳恵
「鈴恵がこんなに真剣に言うのよ?応援しましょ」

惣一朗
「病院が大事な時期にどこからそんな金…まさか病院の資金を使うつもりですか?」

芳恵
「ま、まさか、そんなことしないわよ」

惣一朗
「世間知らずのお前が会社経営なんて、世の中甘くない、家族に迷惑かけるな」

 

父を見ていて分かる。

会社経営は並大抵の努力では成り立たない。

どんな事業か分からないけど、上手くいって欲しい。

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(こんな緊張した雰囲気なんて……)

私はオペ室勤務の看護師として初めての手術に臨んでいた。

今までは患者さんと触れ合うのが生きがいだったけど、これからは命を救う手助けをする。

麻酔で眠っている患者さんが、無事に目覚めることを見届けるのが私の役目……

そして、惣一郎さんの…オペに入った医師のサポートをするのが、私の新しい仕事だった。

 

惣一朗
「メス」

美咲
「は、はい」

 

緊張して上手く出せない。

 

惣一朗
「ハサミ! 違う、それじゃない」

 

えっと、組織を剥離するのは……。

 

惣一朗
「右から三番目だ」

 

そうだ、メッツェン。

名称や用途を覚えたはずなのに、頭が真っ白、手が動かない。

もたつく私を惣一朗さんが時折フォローしながら、何とか無事に手術は終了した。

夫婦だから息がピッタリ合うだろうとオペ前に周りから言われたのに、
これじゃあ惣一朗さんに恥をかかせてしまうわ。

もっと勉強しないと……。

落ち込んで手術室から出ると、目の前には次のオペに入る松宮先生がいた。

 

松宮
「どうした? らしくない顔して」

美咲
「初めてのオペで緊張して」

松宮
「気遣いが出来る君と組めば医師はいいオペが出来るよ、頑張れ」

 

いつも松宮先生の言葉は、温かく胸にしみる。


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夕食の後、部屋へ行き勉強していると惣一朗さんが入ってきた。

 

惣一朗
「医療器具の勉強か?」

美咲
「今日のオペ、スムーズに動けなくてごめんなさい」

惣一朗
「最初は誰でも緊張するよ……循環器系、松宮先生の専門だな」

 

調度開いていた場所は循環器系のページ。

それを見た惣一郎さんの顔色がサッと変わった。

 

美咲
「診療科によって使う医療器具が違い、同じ器具でも科が変われば呼び方が違うので一通り覚えようと」

美咲
(あぁ、また、誤解させちゃう…。たまたまこのページを開いただけなのに)

惣一朗
「まずは夫の専門、消化器系を完璧に覚えるべきじゃないのか!」

 

惣一朗さんは床に何かを落とし出て行ってしまった。

 

美咲
(ファイル?)

美咲
「これは……」

 

診療科ごとに使う医療器具の写真がファイルされ、それぞれの名称が手書きで書かれていた。

忙しいのに、私の為に作ってくれたんだ。

結婚してから冷たく感じていたけれど、彼なりに私の事を気づかってくれてる。

松宮先生を忘れられない私が遠ざけているのかもしれない。

たまたまページを開いていたけど……
松宮先生をサポートする自分を想像していた。

ノックの音がして、芳恵と鈴恵さんが入ってきた。

何だか顔つきが険しい。

 

芳恵
「惣一朗が入浴している間に白状なさい」

鈴恵
「家宝の指輪取ったでしょ」

美咲
「指輪…?知りません」

芳恵
「和室の金庫に入っていたのがないの、あなた、昨日、和室掃除したでしょ」

美咲
「金庫に指輪が入っていたのも知らないし、金庫の番号も知りません!!」

鈴恵
「調べれば分かる事よ」

 

芳恵と鈴恵さんは、私の箪笥の引き出しを手当たり次第に開けだした。

 

美咲
「やめてください!」

鈴恵
「この箱、怪しいわね」

箱の中にはテニスボールと高校の部活で一緒に撮った松宮先生の写真が入っている。

これを見られたら誤解されて、松宮先生に迷惑がかかってしまう。

鈴恵さんから箱を取り換えし、胸に抱えた。

 

芳恵
「お見せなさい!」

鈴恵
「何か隠してるわね?それに入ってるんでしょ!」

芳恵
「こんな素行の悪い人、一体裏で何をしてるか分からないわね」

 

お母様が、ベッド脇に置いてある携帯に手を伸ばす。

思わず怪我をしている手で、携帯を手にとると激痛が走った。

痛い、痛い……
体も心も、もうボロボロだわ。

 

鈴恵
「何よ!やましいことがあるから隠すのね?!まさか、浮気でもしてるの?」

鈴恵
「絶対この女が犯人よ!」

 

鈴恵さんの手が、携帯とテニスボールが入った箱に伸びてくる。

もう嫌、もう耐えられない!

泥棒扱いするなんて。

この人達と家族になるなんて、無理よ!

家を飛び出すと、無我夢中で走り出した。


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思わず家を飛び出し、どこも行くあてのない私は実家に戻った。

けれど、立川家から事情を聞いていた父が入る事を許さなかった。

 


「お父さん、外は雨よ!入れてあげましょう」


「お前は黙ってろ!」

美咲
「誤解なの!」


「誤解なら立川家に帰って解いてこい!」

美咲
「私の話を聞いてくれないのよ…!お父さん、お願い…!!」


「努力が足りないんだ!
立川さんのお陰で会社は持ち直したんだ、親の顔に泥を塗る気か!」

 

お父さんは私より会社が大事なんだ……。

分かりきっていたじゃない。

お金の為に、あの家に嫁がせた。

私には、誰も味方がいない。

深い孤独が、雨に濡れて冷えた体を包んでいく。

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頭を抱える惣一朗を取り囲む芳恵、鈴恵、院長。

 

惣一朗
「もう少し言い方あるだろ?」

院長
「何かの間違いじゃないかね」

芳恵
「いいえ、あの態度は怪しいわ」

鈴恵
「あの指輪は私がもらうはずだったのよ!
あぁ、気分悪い、気分転換に出かけてくるわ。お母様、お小遣いちょうだい」

芳恵
「この間、渡したばかりでしょ」

 

財布を開けた鈴恵が苦笑いを浮かべる。

 

鈴恵
「あら、うっかりしてた。パーティーでお手洗い行った時、お財布に入れたのね。お母様、指輪あったわ」

惣一朗
「何だって!?」

芳恵
「そういえば、鈴恵に貸してたわね……」

惣一朗
「どうして問い詰める前によく考えなかったんだ」

芳恵
「何か隠していたのは確かよ、少し懲らしめてやりましょ」

鈴恵
「あの態度は怪しいわ。これがきっかけで思わぬことが分かるかもしれないわよ?」

 

指輪が見つかった事を知らない私は、雨の中、一人、あてもなく歩いていた。

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土砂降りの雨の中、どこからともなく携帯電話の音が聞こえてくる。

私の携帯……?

携帯電話を手に飛び出してきた事を思い出し、視線を向けた。
 

◆ 惣一朗とのエンディングを見たい方はこちら♪
⇒【惣一朗ルート】第4話へ

 

◆ 松宮とのエンディングを見たい方はこちら♪
⇒【松宮ルート】第4話へ

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