【実録】なぜ?男は不倫をするのか?<第2話>

【実録】なぜ?男は不倫をするのか?<第2話>

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今日も、残業だった。

週の内の、半分以上、残業なんて当たり前だ。

急な案件も入ってくるので、仕方のない事だけれど。

ジャケットのポケットから、携帯電話を取り出すと、一件、連絡が入っていた。

桂木加奈からだった。

内容は、この間の合コンは楽しかった、という事と、迷惑をかけてしまった事に対するお詫びがしたいとの事だった。

今から会いたいとも書いてある。

連絡先は、実に聞いたようだ。

彼女から連絡が来るとは思っていなかったから驚いた。

俺は、返事を返すかしばらく考えた。

恵美には、今日は遅くなる、と連絡を入れて、桂木さんに返信をした。


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加奈
「突然、すみません……。どうしても、先日のお詫びがしたくて……」


「わざわざ、そんなことしなくてもいいのに。飲み会の席でのことなんだから、別に気にしてないよ」

 

桂木さんは、お詫びとして、食事をご馳走してくれるそうだ。

店は、パスタが美味しいと評判の店だった。

店内は、柔らかな色合いで統一されて、男だけで入るのには勇気が必要な店だ。

彼女はペスカトーレを注文して、俺はカルボナーラを頼んだ。

 

加奈
「たいしたことはできませんが……。せめてもの気持ちです」


「ありがとう。じゅうぶんだよ。家に帰った後は、大丈夫だった?」

加奈
「はい、なんとか……。でも、あのときのこと、あんまり覚えてなくて……、あっ、でも……、倉本さんの隣の席で、楽しかったってことは、ちゃんと覚えてますよ」

 

そう言われて、俺の心臓は高鳴った。

 


「そうか。俺も、あのときは楽しかったよ。桂木さんは、酔うとずいぶん人が変わるんだね」

加奈
「はい……。そうなんです。お酒弱くて……。あのときは、すごく緊張してて、飲まずにはいられなかったんです……」


「なんで、緊張してたの?」

加奈
「だって……。倉本さんが隣にいたから……」

 

彼女は、視線を膝元に落として、そう言った。

 


「……。俺なんかに緊張してたら、男と付き合えないよ」

 

俺は、冗談交じりに言った。

 

加奈
「そうなんです……。私、あんまり、男の人と付き合ったことがなくて……。この間の合コンだって、仕方なく参加したんです。なかば、強制的でした……」


「そうか……。俺と同じだな」

加奈
「そうなんですか!」


「幹事の男がいただろう? 俺は、あいつの誘いでさ。あいつに何か頼まれると、断れないんだよ。ただの悪友だけどな」

加奈
「男の人って、いいですよね。そういう関係があるって。憧れるなあ……」


「おいおい、そんな関係になんて、憧れなくていいんだよ。もっと、普通の友達を作りなよ」

加奈
「そうですね……」


ウエイターが料理を運んできた。

俺は、あまりパスタは好きではないけれど、せっかく彼女が誘ってくれたのだし、楽しもうと思った。

 

加奈
「このお店、女子に人気なんですよ!」

 

彼女は、瞳を輝かせながら言った。

 


「そうだろうね。周りは、女の子ばかりだ」

 

入店した時から、居心地の悪さは感じていた。

 

加奈
「いや……、でしたか?」


「ううん。そんなことはないよ。せっかく、桂木さんが誘ってくれたんだし。さあ、食べよう」

加奈
「はい!」

 

店内には、チェーン店で流れているような、流行の音楽ではなくて、心が落ち着くような音楽が流れている。

カルボナーラを口に入れると、思ってたいたよりも美味しかったので、すぐに二口目を口にした。

ふと、視線が気になったので、顔を上げると、彼女が覗き込むように、俺の顔色を窺っている。

 

加奈
「どうですか?」


「うん! いけるよ。おいしいよ!」

加奈
「よかったー。安心しました」


「そう言えば、桂木さんは、高校時代は美術部だったんだよね?」

加奈
「はい、そうですよ。いまは、まったく関係のない仕事してますけど……」


「なんで、美大には行かなかったの?」

加奈
「……、才能が無かったんです。私、小さい頃から、絵だけは自信があったんですけど、高校には、私より上手く描ける人なんて、たくさんいましたから……。身の程を知りました。
もし、美大に受かってとしても、そこには、また、私より上手く描ける人たちがたくさんいますから……」

 

俺は、返す言葉が何もなかった。

 

加奈
「倉本さんは、すごいですね。仕事にされてるなんて。憧れます」


「俺だって、才能なんてないよ。ほとんどの人間が、才能なんてないんだから。それでも、続けられるかどうかだよ。……。ごめん、なんか説教みたいになってしまって……」

加奈
「いいんです。倉本さんと話してると、すごく楽しいですから」


「桂木さんは、物好きな人なんだね。俺なんかと話してて楽しいなんて」

加奈
「俺なんかなんて、言わないでくださいよ。倉本さんは、私の憧れですから」


「ありがとう……」


ウエイターが、空いた皿を下げて行った。
 


「さて、そろそろ、帰ろうか。もう、遅い時間だし」

加奈
「倉本さんは、この後、なんか予定はあるんですか?」


「特に予定はないけど、今日は、少し疲れたかな……」

 

俺は、結婚している事を伝えなかった。

どこかに、何かを期待している自分がいる事に気が付いた。

 

加奈
「そうですよね……。お仕事、忙しいですもんね。今日は、付き合ってくれて、本当にありがとうございました。来てくれて、うれしかったです」


「俺こそ、誘ってくれてありがとう。パスタも美味しかったし、楽しかったよ。じゃあ、帰ろうか」

 

彼女が、会計を済ましてくれて、店を出た。


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「どうやって、帰るの?」

加奈
「私は、電車で帰ります」


「じゃあ、駅までは一緒だな」

加奈
「はい!」

 

駅まで、二人で歩いて行く事にした。

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時計で時間を確認すると、23時を過ぎていた。

この時間でも、駅の近くは、大勢の人で賑わっている。

恵美は、もう寝ているだろうな。

 


「23時、過ぎてるけど、家まで送って帰ろうか?」

加奈
「えっ……。でも……、倉本さん、疲れてるから、今日は大丈夫ですよ!」


「そうか……。わかった」

加奈
「その代わりに、また、私と会ってくれませんか?」

 

俺は、思わず、目を見開いた。

 


「……。うん、いいよ」

 

思わず、そう言ってしまった。

 

加奈
「ありがとうございます! すごく、嬉しいです」

 

その後、他愛もない話をしていたら、駅に着いてしまった。

 

加奈
「今日は、ありがとうございました。じゃあ、おやすみなさい」


「お礼を言うのは、俺のほうだよ。ありがとう。おやすみなさい」

 

彼女が、改札の中の人混みに消えて行くまで、その姿を目で追った。

彼女は、何度も振り返って、お辞儀をしてくれた。

俺は、四度目のお辞儀の時に、手を上げて、「またね」と聞こえるはずもないのに、声に出した。

すると、彼女が、「はい」と応えた気がした。

俺は、しばらく、その場所に立ち尽くしていた。

これから、まさか、彼女と何度も会う事になるなんて、この時は想像もしていなかった――。