ロマンス小説『engagement~誓い~』<第8話>

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バルコニーに出ると、ひやりとした夜気が肌を撫でた。

35

イリス
(さすがにつかれちゃったな)

 

一休みしようと伸びをすると、夜の闇に紛れた辺りでのそりと影が動いた。

 

イリス
「し、失礼いたしました……!」

 

イリス
(人がいるなんて思わなかった。恥ずかしい……)

 

???
「いや、こちらこそ。驚かせてすまないな」

 

影が闇から光の辺る場所まで出てきた。

その顔には、見覚えがなかった。

ガタイがよく、ほどよく日焼けをしていて、最初の印象はまるで熊。

眼帯をしており、左目しか見えないが眼光も鋭く、こちらの気持ちまで見透かされてしまいそう。

 

イリス
(ゲストの方の顔と名前は一通り覚えたつもりだったけど……)

 

イリス
「まだ、ご挨拶をしておりませんでしたね。イリスと申します」

???
「知ってる。あんた今夜の主役だろ。俺はアルジルだ」

 

イリス
(アルジル……? そんな名前リストにはなかった……)

イリス
(アルジャン様に伝えたほうがいいかしら……)

 

私はちらりと大広間に視線を走らせた。

イリス
「アルジル様。それでは、パーティーを楽しんでくださいね」

 

私が窓の扉を開けようとした手を、アルジル様が掴む。

 

アルジル
「そんな逃げるように行かなくてもいいだろう? 主催者なのならもう少しもてなそうぜ?」

イリス
「これは申し訳ございません。もてなしが足りなかったようでございますね」

イリス
「それでは、お料理をお持ちしましょう。取ってまいりますので、少し道を開けていただけますとうれしいのですが」

アルジル
「そう切り返すとは、あんたなかなかやるねぇ」

 

アルジル様は私の頬に、軽く触れるか触れないかのキスをすると、にやりと笑う。

 

イリス
「な、なにを……!」

アルジル
「ま、今日はこれで勘弁してやるよ」

 

そういうと、掴んでいた私の手を離す。

ほっとし、後ろを振り返るともうアルジル様の姿はそこにはなかった。

 

イリス
(今の人はいったい、何者なの……?)

 

見つめる闇の先に、その答えを見出すことは出来なかった。

14

イリス
(さすがに今日はつかれちゃったな……)

 

お帰りになるゲストのみなさんを見送るのにもまた、相応の時間がかかった。

 

イリス
(でも、ともかく無事にパーティーが終わって良かった)

 

ふいにノックの音が響く。

 

イリス
(だ、だれ……!? まさかまた、アルジル様!?)

 

私はそっと、足音を消して扉に近づいた。

サフィール
「まったく。さっさと開けろ」

 

扉の向こうには、サフィール様の姿があった。

 

イリス
「サフィール様」

 

私はほっと胸を撫で下ろした。

 

イリス
「こんな時間にどうしたのですか?」

 

サフィール様を部屋に迎え入れる。

 

サフィール
「こんな時間だ。やることは限られていると思うが? それに結婚したのは跡継ぎ問題を解消するためである」

 

私はその言葉の意味に気づき、頬が熱くなるのを感じた。

 

サフィール
「パーティーはご苦労だったな。これで結婚の問題で悩む必要はなくなった」

サフィール
「それに、お前のホスト役は悪くなかった。まあ、及第点というところだ」

 

そう言って、サフィール様は私の身体を引き寄せる。

 

サフィール
「俺の妻に相応しい女になれ」

 

サフィール様はそう言いながら、私の身体を抱きすくめるようにベッドへと押し倒す。

そこに落とされたキスは、思ったよりもずっと、優しいものだった。

 

⇒次回更新をお待ちください

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フリーウェブライター、恋愛ライターとしても活動中。主にいろいろな目線で、ライフスタイル/恋愛/占いについて執筆。たまにライブ活動も行うが執筆最優先の生活が続いている。常に面白いことを探しに旅をしている。「初めまして、バルクです。ベリーグッドではいろいろなジャンルの記事を書かせていただいてます!読者のみなさんのお役に立てたらうれしいなと思います。よろしくお願いします。」