ロマンス小説『engagement~誓い~』<第7話>

ロマンス小説『engagement~誓い~』<第7話>

←第6話へ

 

サフィール様に相談した翌日。

さっそくプラティーヌのところへパーティーの依頼に行こうとすると、一緒にロッシュさんもついてくる。

 

イリス
(……いやに厳重な感じだったけど私が逃げ出すと思ってる、とか?)

 

道中の警護を必要以上に感じ、なんとなく不穏な空気だった。

 

イリス
(それとも、例の賊の問題、なのかな……)

 

アルジャン様の言葉を思い出す。

 

イリス
(悪いことが起きないといいのだけど)

 

そんなことを考えていると、プラティーヌ様への取り次ぎを頼んだ使用人が戻ってきた。

 

使用人
「ええっと……。主は眠いそうです。お引き取りを」

イリス
「ええっ!? ちょっと待ってください! 困ります!」

使用人
「困ると言われても……。主はそういう時は人にお会いになりませんので」

イリス
「大事な用件なんです!」

ロッシュ
「イリス様、どうされました?」

 

思わず大きな声を出すと、ロッシュさんがやってくる。

 

使用人
「ロッシュ様! お、お知り合いだったんですか!?」

ロッシュ
「プラティーヌ様は、いないのですか?」

使用人
「いえ、今すぐ! あの、中にどうぞ!!」

 

顔色を変えた使用人は、すぐにプラティーヌ様に取り次いでくれた。

09

中へと入るとそこには気だるげに椅子に腰掛け、こちらを見つめる男性がいた。

栗色の長い髪の毛をゆるく一本に結び、眠そうにしているだけなのに、流し目に見える瞳。

そこに存在するだけで色っぽさを振りまいている、そんな人だった。

 

プラティーヌ
「ふ~ん。あなたがあのサフィールの奥方……ね。あんな男のもとによく嫁ぐ気になったものだ」

 

私はそれには答えなかった。

 

プラティーヌ
「それにしても、あなたは可愛らしいね。どう? あんな男じゃなくて僕のところにおいでよ」

 

そう言って、プラティーヌは私の手の甲に口付ける。

 

イリス
「いえ、そのような話ではなく……。今日、訪問させていただいた用向きは、パーティーでの演奏をお願いしたく……」

プラティーヌ
「ふ~ん、じゃあ、パーティーの話じゃなくて僕があなたを落とすために時間を作ったらちゃんと僕の話を聞いてくれるの?」

イリス
「ですから……」

ロッシュ
「プラティーヌ様、お戯れもそのへんになさいませ。さもないと……」

 

プラティーヌ様はわざとらしくため息をついて、私の手を離した。

 

プラティーヌ
「はぁ……。わかった、わかったってば。ちゃんとやるって」

ロッシュ
「ようございました。さあ、ここにはもう長居は無用でございます。次の準備をしないといけませんからね」

イリス
「あ、はい」

 

プラティーヌ様はロッシュさんの言い様に慣れているのか気にする様子もなく、私にまたねと手を振った。

数日後。

あっという間にパーティーの当日となった。

 

イリス
「本日はようこそ、おいでくださいました」

 

婚約パーティーに相応しく、華やかなドレスに身を包んだ私は、ホストとして訪れるゲストに慎ましく頭を下げた。

サフィール様も本心はさておき、ホストとして最低限のマナーを弁えていた。

 

イリス
(面倒くさいと迷惑そうにしていた人には見えないわ)

 

プラティーヌ
「僕の演奏は、サフィールのためじゃないよ。イリスのためにしてあげるんだからね?」

 

そう念押しして、プラティーヌ様は先ほどから見事な演奏を奏でてくれている。

 

アルジャン
「そうやっていると、伯爵夫人に見えるね!」

 

今夜のためにこっそりと警備に来たらしいアルジャン様は、タキシード姿がなかなか様になっている。

 

アルジャン
「もう、使用人と間違えたりしないからね」

 

そう言って、パーティーに紛れていくアルジャン様の背中を見送った。

 

イリス
(ええっと……、まだゲストで来てない方は……)

ハイドランジア
「お前がオーヴェルニュ伯爵夫人になるとはね」

フリージア
「どんな汚い手を使ったのか、教えてほしいくらいですわ!」

イリス
「叔母様……。フリージア……」

ハイドランジア
「ふん、まあもう結婚するっていうのなら仕方がない。サフィール伯爵はそれでも、援助はしてくれるとおっしゃるしね」

ハイドランジア
「伯爵も見る目がないこと」

フリージア
「本当ですわね!」

 

イリス
(サフィール様が、援助を……)

 

あの夜以来、サフィール様は特にモンベリアル家の話をしなかったけれど、筋は通してあったらしい。

 

モンベリアル伯
「イリス! すごく綺麗だよ!」

イリス
「叔父様! 戻っていらっしゃってたんですね!」

 

領地を回っていることの多い叔父に会うのは久しぶりだった。

いつものように大きな身体でハグをしてくれる。

 

モンベリアル伯
「お前が結婚するんだ。戻ってこないわけないだろう!」

モンベリアル伯
「幸せになるんだよ……」

 

頭をぽんぽんと撫でてくれる。叔父様の言葉に返す返事は持たなかったけれど。

 

イリス
(叔父様に、少しは恩返しになったのかな……)

 

少しだけ、この結婚を良かったと思うことができた。

 

サフィール
「あとは好きにするといい」

 

ゲストへの挨拶が一通り終わると、サフィール様はそう言って、伯爵たちの談笑へと混ざっていった。

 

イリス
(ふぅ……、ちょっと、外の空気でも吸って来ようかな)

 

⇒第8話へ
banner
↑こちらのタイトルの目次は此方へ
banner
↑その他のタイトルは此方へ

ABOUT この記事をかいた人

bulk

フリーウェブライター、恋愛ライターとしても活動中。主にいろいろな目線で、ライフスタイル/恋愛/占いについて執筆。たまにライブ活動も行うが執筆最優先の生活が続いている。常に面白いことを探しに旅をしている。「初めまして、バルクです。ベリーグッドではいろいろなジャンルの記事を書かせていただいてます!読者のみなさんのお役に立てたらうれしいなと思います。よろしくお願いします。」