ロマンス小説『engagement~誓い~』<第6話>

ロマンス小説『engagement~誓い~』<第6話>

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イリス
(これが、婚約パーティーの招待客リスト……)

イリス
(爵位の高い人ばかりだわ)

 

さすがにこのお客様たちを相手にホストを務めるのかと思うと、緊張してしまう。

 

イリス
(気持ちが滅入りそうだったから、庭に出てみたけれど……)

26

せっかくの美しい庭も、婚約パーティーのことを考えると、気もそぞろだ。

 

イリス
(こんなに立派な人たちの前で婚約発表をしちゃったら、やっぱりやめる、というわけにいかないよね……)

 

自分にはもうこの道しか残されていないのだろうと思いつつも、決めかねる気持ちがやはりある。

 

イリス
(でも、街にたどり着くことさえ出来なかった私が、ここを出て生きていけるのだろうか……)

 

私は深いため息を漏らした。

 

???
「かーのじょ、なにか悩みごと?」

イリス
「きゃあっ!」

 

突然、背後から肩を叩かれて、思わず大きな悲鳴を上げる。

???
「うわぁっ、そこまで驚かなくっても」

 

振り返ると、そこには騎士が立っていた。

さらさらふわふわの猫っぽい金髪に人なつっこそうな目。

年齢的には青年なのだろうが、まだ少年っぽさが抜けきれていない印象を受ける。

 

イリス
「す、すみませんっ」

???
「うそうそ。驚かせちゃってごめんね。あんまりすごいため息だったからさ」

???
「俺はアルジャン。悩みがあるなら相談に乗るよ?」

 

いかつい恰好とは裏腹に、人の好さそうな笑みを浮かべるアルジャン。

私もつられて、笑顔になった。

 

イリス
「大丈夫です。でも、お気持ちだけ……。ありがとうございます」

アルジャン
「え、なんでなんで? 俺、けっこう頼りがいありそうに見えない?」

イリス
「頼りがいは、ありそうに見えます」

アルジャン
「でっしょー? じゃあ、ほら頼ってよ。えーと……、ごめん。名前教えて?」

イリス
「イリスと申します」

アルジャン
「イリスね! なんでため息をついてたか、教えてくれる?」

 

私は首を振った。

 

アルジャン
「おかしいなぁ。俺、こんなに頼りになるのになぁ……」

 

不思議そうに首を傾げるアルジャン様を見ているうちに、可笑しい気持ちになってきた。

 

アルジャン
「お、やっぱり笑顔のほうが可愛いね!」

イリス
「ふふ。ところでアルジャン様はなぜここに……?」

 

私は当然の疑問を口に出した。

警備の手厚い屋敷の庭に、用のない者が入り込めるわけはない。

 

アルジャン
「なんだかさ、最近あんまり治安が良くないみたいなんだよね」

 

アルジャン様が少しだけ、声のトーンを落とす。

 

イリス
「そうなんですか?」

 

昨日、ロッシュさんがサフィール様に何事か囁いていたことを思い出す。

 

アルジャン
「まあ、俺がみんな守っちゃうけどね! だから、イリスが心配することはないよ!」

 

アルジャン様が胸を張る。そこへ、ロッシュさんが姿を現した。

ロッシュ
「アルジャン様。こちらにいらしたんですか」

アルジャン
「あ、ロッシュ。ごめんごめん。俺、約束の時間に遅れちゃった?」

ロッシュ
「すでにだいぶ過ぎております。主がお待ちですよ」

アルジャン
「ごめんね。つい楽しくて話し込んじゃってさ」

アルジャン
「でも、新しい使用人さん、いい人が入ったみたいだね。ロッシュの仕事もこれで少しは減るんじゃない?」

ロッシュ
「いえ、使用人ではございませんよ。サフィール様の奥方になられる方です」

アルジャン
「ええっ!? そうだったの?」

 

アルジャン様が目を丸くして私を見る。

 

アルジャン
「教えてくれれば良かったのに! もっと派手なドレスとか着ていてくれないと、わからないよ!」

 

イリス
(確かに、今日の格好は…地味かもしれないけど……)

 

今日はダリヤが私のために持ち出してくれたドレスを着ていた。

 

イリス
(なんだか、こっちのほうがしっくりくるのよね)

 

ロッシュ
「アルジャン様、さあ主がお待ちです。こちらへ」

アルジャン
「う、うん。またね、イリス……。じゃなくて、イリス様かな」

イリス
「いえ、イリスでいいですよ」

アルジャン
「ありがとう! 使用人と勘違いしちゃってごめんね。じゃあ、いってきまーす!」

 

アルジャン様は陽気に手を振りながら、ロッシュさんと連れだって行った。

 

イリス
(ふぅ……。気持ちもちょっと晴れたし、パーティーのこと考えようかな)

昼間のうちに料理長にパーティーの料理などの相談に行くと、料理長がいろいろな案を出してくれて、料理はすんなりと決まった。

 

イリス
(オーヴェルニュ家の食事をずっと作ってきた方だから、ほとんどお任せになったけど、安心だよね)

 

しかし、私の頭を悩ませていることは他にもあった。

 

サフィール
「パーティーの料理はもう決めたようだな」

イリス
「はい。料理長に相談いたしました」

サフィール
「任せておいて大丈夫だろうが、メニューがすべて決まったら、確認はするように」

イリス
「はい。試作もされるそうですから、見させていただきます」

サフィール
「それならいい」

イリス
「ひとつ、悩んでいることがあるのですが……」

サフィール
「なんだ?」

イリス
「音楽のことです」

サフィール
「ああ……、そうだな。お抱えというわけではないが、音楽家は何人か知り合いがいる」

サフィール
「パーティーだから、派手なほうがいいだろう。紹介状を書いてやるから、交渉してこい」

 

サフィール様はそういうとロッシュさんを呼び、すぐに紹介状を書いてくれた。

 

イリス
(プラティーヌ、様)

 

私は封書の宛名を確認しながら、さっそく明日行くことに決めた。

 

⇒次回更新をお待ちください。

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フリーウェブライター、恋愛ライターとしても活動中。主にいろいろな目線で、ライフスタイル/恋愛/占いについて執筆。たまにライブ活動も行うが執筆最優先の生活が続いている。常に面白いことを探しに旅をしている。「初めまして、バルクです。ベリーグッドではいろいろなジャンルの記事を書かせていただいてます!読者のみなさんのお役に立てたらうれしいなと思います。よろしくお願いします。」