ロマンス小説『engagement~誓い~』<第3話>

ロマンス小説『engagement~誓い~』<第3話>

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イリス
「これからどうしよう……」

08

イリス
(行くあてなんて……ほかの親戚も、もういないし……)

 

ダリヤ
「イリス様!」

イリス
「ダリヤ!?」

ダリヤ
「良かった……ハイドランジア様に追い出されたと聞いたので……心配で……!」

イリス
「ダリヤ……」

ダリヤ
「どこか行くあてとかありますか?」

 

私はかぶりを振って返事をする。

 

ダリヤ
「とりあえず、お屋敷の中ではほかのメイドたちに見つかってしまいます」

ダリヤ
「こちらへ」

イリス
「?」

 

私はおとなしくダリヤの後をついていく。

06

イリス
「ここって、馬小屋よね……?」

ダリヤ
「はい! ここなら大丈夫です」

ダリヤ
「馬番は私と仲良しですし、ハイドランジア様に告げ口をする人ではありませんから」

ダリヤ
「こんなところしかご案内することができず心苦しいのですが……」

イリス
「ううん。ありがとう。とりあえずここで夜は過ごせそうだし、問題ないわ」

ダリヤ
「イリス様……。あ、これパンとミルクです」

ダリヤ
「お腹すいてらっしゃるかと思って」

 

パンとミルクと聞いたとたんにお腹の虫が騒ぎ出す。

 

イリス
「う……。そういえば、夕ご飯前だったわね」

 

私はありがたく、食べ物をもらう。

イリス
「ダリヤ、いつも味方をしてくれてありがとう。本当に感謝しているの」

ダリヤ
「そんな! 私はイリス様におつかえしているメイドとして当然のことをしているまでです!」

 

ダリヤの気持ちがあまりにも嬉しくて涙がこぼれそうになる。

 

イリス
「もう行って。ダリヤがいなくなったことがわかったら、きっと私に会いに行ったんじゃないかって疑われてしまうから」

ダリヤ
「でも……」

イリス
「ほら、早く。私はダリヤが怒られるところなんて見たくないわ」

ダリヤ
「わかりました……ちゃんと食べて、寝てくださいね!」

 

ダリヤは一礼すると、屋敷のほうへ駆け出す。

途中何度かこちらを心配そうに振り返ってくれる。

ダリヤの姿が見えなくなってから、私は馬小屋の使われていない場所を寝床に決め、敷き詰められているわらの上に腰を下ろした。

パンを一口かじり、ミルクを飲む。

 

イリス
(これからどうしよう……)

イリス
(どうにか、生活していかなくちゃ……)

イリス
(街にでも出れば仕事があるのかしら……)

 

屋敷からほとんど出たことがない私は、街の様子など何もわからなかった。

 

イリス
(これが全部、私の見ている夢だったなら……)

 

食事が終わり、さらに今後のことを考えようと思っていたのだけれど、よっぽど気が張っていたのか、気がついたら眠りに落ちていた。

翌朝。私はダリヤの声で目が覚めた。

04

ダリヤ
「おはようございます、イリス様。朝食をお持ちしました」

イリス
「あ、ダリヤ……ありがとう……」

 

持ってきてくれたサンドイッチを一口ほおばる。

 

イリス
「……」

ダリヤ
「お口に合いませんでした?」

イリス
「ううん、ダリヤのサンドイッチだものいつも美味しいわ」

イリス
「朝目が覚めたら、本当はちゃんとベッドの中にいて、昨日のことは全部夢だったんじゃないかってちょっとだけ期待しちゃってたの。そんなわけ、ないのにね」

ダリヤ
「イリス様……」

イリス
「ふふ、まあ夢じゃなくて現実なら仕方ないわ!」

イリス
「ちゃんとどうするか今後のことを考えて、前を向かなくちゃね」

ダリヤ
「これからどうされるのですか?」

イリス
「街に出て、仕事と寝る場所を探してみるわ」

ダリヤ
「……わかりました。それなら少々待っていてくださいませ」

 

ダリヤはそう言うと、屋敷へと駆けていく。

すぐに戻ってきたダリヤの手には私のアタッシュケース。

 

ダリヤ
「お待たせしました。こちらを」

 

鞄を開けると中にはお母様の形見の宝石や、洋服。

そして、それとは別の包みでサンドイッチを渡してくれる。

イリス
「何から何までありがとう……。何も返すことができなくてごめんね」

ダリヤ
「そんな……! 私が好きでやっていることですから」

 

ダリヤが泣き出しそうな声を出す。

 

イリス
「ダリヤ……」

ダリヤ
「それにいつか仕事が落ち着いたら私もご一緒させてください。イリス様に仕えることが私は何より楽しいのです」

イリス
「ですから、これはある意味先行投資なのです」

 

そう言って、今度は笑って見せるダリヤ。

私は思わずダリヤを抱きしめていた。

 

イリス
「この恩に報いるためにも、絶対に私はあなたを手元に置けるくらい頑張るわ」

ダリヤ
「はい……。お待ちしています」

イリス
「それじゃあ、もう出発するわね。森を抜けていかなくちゃ街まで行けないし、時間もかかると思うから」

ダリヤ
「わかりました。お気をつけて。落ち着いたら連絡くださいね……!」

イリス
「うん!」

 

私はダリヤに見送られながら、街へと元気よく歩き出したのだった。

 

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フリーウェブライター、恋愛ライターとしても活動中。主にいろいろな目線で、ライフスタイル/恋愛/占いについて執筆。たまにライブ活動も行うが執筆最優先の生活が続いている。常に面白いことを探しに旅をしている。「初めまして、バルクです。ベリーグッドではいろいろなジャンルの記事を書かせていただいてます!読者のみなさんのお役に立てたらうれしいなと思います。よろしくお願いします。」