『ジョジョの奇妙な冒険』という少年漫画をご存知ですか?
作中に出てくるキャラクターたちの個性的なポーズを”ジョジョ立ち”と呼び、写真のキメポーズとして流行ったこともありますね。
また印象的な擬音語がしばしば取り上げられ、ジョジョならではの世界観を作り上げている魅力の要素となっています。
そういった部分的な要素が話題になるので、漫画のストーリー自体は知らなくても「タイトルだけは知ってる」なんて方もいるのではないでしょうか。
漫画は現在Part8を展開していますが、今回ご紹介する小説版ジョジョは、Part4”ダイヤモンドは壊れない”が原作となっています。
「切なさの達人」と称される作家・乙一がノベライズした『The Book』。
原作は少年漫画ですが、『The Book』において綴られるのは様々な”愛”のカタチです。
あなたはどの”愛”に共感するでしょうか?
次ページより、血生臭い様相を呈して物語が始まります。
ある冬の日、杜王町のコンビニの前で、ぶどうヶ丘高校1年生・康一と人気漫画家・露伴は血まみれの猫に遭遇します。
事件を予感したふたりは、飼い主を捜し一軒の家にたどり着きます。
そしてその家の中に、「まるで車に轢かれたかのような」女性の死体を発見するのです。
こんなこと”あり得ない”!
しかしスタンドという”普通ではあり得ない能力”を持つ彼らは、同じスタンド使いの犯行である可能性を疑います。
いえ、この時点で”それ以外はあり得ない”とわかっていたのです。
織笠という女性の死亡。
これが杜王町のスタンド使いすべてを巻き込む、3ヶ月に渡る事件の幕開けでした。
恋人・照彦の秘密を知ったがためにビルの隙間に落とされ、身ごもっていた子供を絶望の中で生む悲運を背負った女性・明里。
明里は”不自然なまでに”誰にも見つかることなく、照彦に命を握られることとなります。
なぜなら彼は、”自分の指定した領域を絶対不可侵にする”スタンド能力の持ち主だったのです。
そうして明里を世間から隔絶したままビルの隙間で支配し、子供を産ませます。
絶望の中で明里が生きる意味は、”お腹の子供を産むことだけ”でした。
「名前も、過去も、人間としての思考も剥がれ落ちた。最後に残ったのは、産むという意思だけだった」
身を引き裂かれるような激痛に耐え、壮絶な出産の末得た我が子。
この孤独な空間で、唯一自分の存在を示すあたたかな命。 そのたったひとつの希望でさえも、無常にも照彦によって取り上げられるのです。
その後は照彦が足を運ぶこともなくなり、食料はとうに尽き、明里はひとり、誰にも知られることなく生涯を終えるのでした。
歳月が流れ、父親に育てられることなく施設で育てられた明里の息子は、杜王町にいました。
”常人離れした記憶力”があり、”些細なことも忘れられない”苦悩を持つぶどうヶ丘高校2年生・琢馬。
彼は、スタンドによって織笠を殺した犯人でした。
母を死に追いやった父親と関係を持っていた織笠を手始めに、復讐ののろしを上げたのです。
しかしこの事件をきっかけに、ジョジョPart4の主人公である仗助や、その仲間・億泰、冒頭に登場した康一や露伴などが動き出します。
これまで数々のスタンド使いに杜王町は危険にさらされ、そのたびに命がけで敵を排除してきた仗助たち。
杜王町を脅かす新手のスタンド使いを捜し出すべく、立ち上がります。
父親・照彦への復讐のために、照彦の溺愛する娘・千帆に近づく琢馬。
「お前から愛するものを奪ってやる 」
千帆は不良から助けてくれた琢馬に好意を寄せ、異母兄妹とも知らずに彼と関係を持つようになります。
一方仗助たちは織笠殺人事件の捜査中、仗助の母親までもスタンド攻撃の被害に遭ったことにより、琢馬が犯人であると特定します。
見た目は不良でも普段は温厚な仗助ですが、激怒すると手がつけられません。
母親が攻撃されたことに怒り心頭。
雪の舞う杜王町で、事件に終止符を打つこととなる琢馬との戦いが始まります。
琢馬のスタンド『The Book』は、”自分の持つ記憶を文章に変換して記録する本”です。
本に書かれたことを相手に読ませることによって、その記憶を擬似的に体験させることができます。
戦闘慣れしている億泰との戦いにおいては、満身創痍の苦戦を強いられる琢馬。
しかしスタンドの特性を生かした攻撃により、琢馬が勝利します。
図書館の屋根の上にステージを移し、仗助との接戦にもつれこみます。
肉弾戦に特化したスタンド『クレイジー・ダイヤモンド』の攻撃力で、一気にたたみかけようとする仗助。
対して、じわじわと心理戦に持ち込み、仗助にダメージを与えることに成功する琢馬。
百戦錬磨の仗助を相手に、引けをとらないスピード勝負を繰り広げ、仗助を凌ぐ能力を発揮します。
それでも仲間を背に負った仗助は、無敵を誇る力を発揮するのが常。
仗助の覚悟を決めた攻撃を前に、琢馬が散ることとなるのは必然なのでした。
勝負に敗れ、屋根から落ちそうになる琢馬。
差し出された仗助の救いの手を自らの意思ですり抜け、純白の雪原の上に落ちていくのです。
『クレイジー・ダイヤモンド』の持つ”壊れた物体や負傷した生物を元通りに修復する”能力を以ってしても、琢馬の死は避けられませんでした。
この悲しい事件の引き金となった照彦への罰。
それは、奇しくも溺愛する娘から向けられた刃でした。
全てを知った千帆は、父親の死をもって愛する人・琢馬の復讐を遂げました。
愛する人を失う哀しみと憎しみの連鎖は、千帆の”愛”によって断ち切られたのです。
事件は終焉を迎え、3ヶ月ぶりに杜王町の平穏な日常が戻ってきます。
ある夏の日、康一は、かつて杜王町にいたある女性と再会します。
華奢な体に似合わない大きなお腹。
あどけないままの顔。
彼女は、親戚に引き取られ、今は遠い街に暮らす千帆です。
千帆のお腹に宿るのは・・・
かつて愛した腹違いの兄・琢馬の子供でした。
康一は気づくのです。
”これこそがキミの復讐だったんだね。”
今の彼女を支えるのは、愛しい人の子を宿した幸せなのです。
”たとえこれが、間違いであったとしても。”
立ち去る千帆の後姿に、康一は強く願うのです。
「神様、あの母と子に慈悲を。二人の行くところに、やすらかな家と食事が用意されていますように」
少年漫画を手に取らない女性は多いと思いますが、少年漫画発であっても、この『The Book』の切ない物語は毛色が違っています。
母としての”愛”を貫く明里。
母への”愛”が復讐心を生んだ琢馬。
人への偏執的な”愛”を持つ照彦。
家族や仲間たちへの”愛”から命を懸けて戦う仗助たち。
女としての”愛”を知り、その身に罪深い”愛”を宿す千帆。
あなたが共感したのは、誰の”愛”でしたか・・・?