直哉
「風刺活動には、金が必要なんだ」
やりきれないような表情で、直哉さんはため息を付いた。
直哉
「……今は、母親が父親の目を盗んで俺に援助をしてくれてる。この年で、親の金使って風刺活動だなんて情けないことだけどさ、金がなきゃ本当に何にもできないんだ」
ハナ
「では、お母様は風刺活動に理解を示してるんですか?」
直哉
「うちの母親もさ、裏の家の子供たちと仲よかったし……何よりも、嫁ぐ前は散々、華族にいじめられてたらしいからね。うちの母親、地方の米農家出身なんだけど東都に出てきた頃はずいぶんと嫌がらせされたみたいだよ、田舎者だって」
ハナ
「お母様も……そんな目に?」
直哉
「そ。でも、父親は波風立てたくないみたいでさ……そりゃそうだよね。客商売やってる家の息子がいい年にもなって定職につかないで風刺活動だなんてさ」
ハナ
「そうなんですね……」
直哉
「で、ずーっと父親に勘当をチラつかせられちゃって。そうなったら金が無いから活動も出来ないし……結局ね、普通に仕事して稼げる程度の額じゃどうにもならないんだよ。華族に虐げられてる人たちを救うには金がなきゃ。皮肉なもんだよね、所詮、金には金でしか対抗できないんだから」
自嘲気味に言った直哉さんは、本当に悲しそうな顔をしていて……。
何も出来ない自分が歯がゆかった。
きゅっと唇を噛んだまま直哉さんを見ると暗い瞳を落とし、重い溜息を落とす。
直哉
「……もう1つ、ハナちゃんに伝えなくちゃいけないことがあるんだ」
ハナ
「なんでしょうか……?」
不安気味に聞き直す。
だけど、きっと今から直哉さんが語るのは松乃宮の何かなのだと思う。
聞くのが少し、怖かった。