清人
「ハナさん!!」
ハナ
「若旦那様……?」
声の方を振り向けば、息を切らせた若旦那様の姿。
清人
「……すまない」
ハナ
「い、いえ……若旦那様に謝っていただくようなことは何もありません」
清人
「いや、紀美子を止められなかった私にも責任はある。本当に、すまない」
そう謝罪する若旦那様が頭を深々と下げた。
見るからに女中の姿をしている私に頭を下げる上等なスーツ姿の男の人。
それは、駅の中を忙しなく歩く人たちの足を止めていた。
ハナ
「若旦那様、ど、どうか頭をおあげください」
清人
「いや、ハナさんに許しをもらえるまでは頭をあげられない」
ハナ
「だ、だって許すも何も、若旦那様は謝るようなことしてないですから。
だから……その……」
清人
「……本当に、すまない」
やっと顔を上げた若旦那様は悲しそうな瞳のまま再び謝罪を口にした。
ハナ
「……私こそ、申し訳ございません。お屋敷を飛び出してしまったりなんかして」
ハナ
「これじゃあ、女中失格ですね……」
清人
「それを言うなら、紀美子が主失格だ」
ハナ
「え……?」
清人
「……戻ろう、ハナさん」
すっと若旦那様が手を差し出した。
ハナ
「……わかりました」
差し出された手に、そっと自身の手を重ねる。
と、若旦那様は私の手を優しく包んでくれる。