直哉
「ふぅん、じゃあ屋敷で一番仲良かったのがあの子なんだ」
ハナ
「ええ、そうなんです」
夕食事、思い出話がてらカヨさんの話しをすれば直哉さんは興味深そうに聞いてくれた。
直哉
「で、今日は稲山家で勤めてると」
ハナ
「らしいですね。松乃宮で働いていた女中さんが他にも何人かいるみたいで。すごいですねえ、きっとすっごくお金持ちなんでしょうね」
直哉
「だろーね。……じゃあ、今の松乃宮は大変だね。人手が足りないんじゃ」
ハナ
「ええ……」
直哉
「ちょっとちょっと、なんでハナちゃんがそんなに落ち込んでるわけ?」
ハナ
「トメさんが……松乃宮の女中さんの中で一番長かった人なんですけど、トメさんが今は1人でやっていると聞いたので……それが心配です。それに、若旦那様も、紀美子様と喧嘩ばかりとお聞きしましたから……」
直哉
「……ハナちゃんって、ほんと優しいよね。そりゃまあ、そのトメさんって人と若旦那には世話になったんだろうけどさ、あんな家のことなんか放っておけばいいのに」
ハナ
「そんなっ……そりゃあお屋敷から逃げ出したのは私自信ですけど……あのお屋敷で働けて家族もずいぶんと助かりましたし」
直哉
「ふぅん……ハナちゃんのいい人としては、ちょっと妬けちゃうな」
茶目っ気たっぷりの笑顔で、直哉さんが私の顔をのぞき込んだ。
すぐさま、私は顔を真っ赤にして反応してしまう。
すると、直哉さんはケラケラと笑いながらお茶に手をつけた。
直哉
「俺はさ、ハナちゃんのいい人になれるかな?」
ハナ
「え!?」
直哉
「あー、そんな反応しないでってば。別に今すぐ、どうこうってわけじゃないよ? たださ、思うんだ。ハナちゃんとこれから先もずっとこうして暮らしていけたらなって」
ハナ
「これから先……? って……え?」
直哉
「……うん、そんな真剣に考えなくてもいいんだけどさ、これからも俺と一緒にいてほしいんだ。ハナちゃんが家に来てくれて助かってるし、毎日楽しいし」
ハナ
「そ、そりゃ私も直哉さんとの生活は楽しいですけど……」
直哉
「けど、は余計。楽しいって思ってくれてるならいいよ。いつまでこの生活が続けられるかわからないけど……なるべく一緒にいたいね」
ハナ
「ど、どうしてそんなこと言うんですか? 望めば、いつまでもこの生活が出来るんじゃ……」
直哉
「んー……それはどうだろうね。ハナちゃんだっていつかは実家に帰るだろう?」
ハナ
「東都にいたいです。家族に会いたい気持ちはありますけど……私はずっと東都でお勤めしてたいなって」
直哉
「ずっと……かあ。それって、おばあちゃんになるまで?」
ハナ
「え? あ、そう言われると……」
直哉
「……ごめんね、答えにくい質問しちゃって。でもさ、永遠ってないんだよ。これから先どうなるかなんてわからない。だから、一緒にいられる日が続く限り、一緒にいたいんだ」
ハナ
「……それは、私もです。今の生活を続けたいです」
直哉
「ほんと? うれしいな、そんなこと言ってもらえるなんて。じゃあ、ハナちゃんのいい人になれるよう頑張ろうっと」
ハナ
「もうっ」
からかうような口調に、思わず唇をとがらせると、直哉さんは再び笑った。