けれど、次第にはっきりとしてくる増田くんの言葉。
自信に満ちたように、言っていた。
私が納得するような証拠を用意すると……。
「やめてっ!」
増田くんを振り払うようにカッと目を見開けば、そこには驚いた顔の浜本さんがシャツを脱ぎ捨てた姿でいた。
「ま、真央ちゃん……?」
「あ……ご、ごめんなさい……。ごめんなさい! 浜本さん!」
どうしていいかわからず、脱がされ掛けの服を抑えたまま私はそのまま部屋を飛び出した。
エレベーターの中で慌ててきちんとブラウスのボタンをしめ、なるべく平静を装いながらフロントの前を通る。
(このままじゃダメ、早く浜本さんに確認しないと)
そうは思っても、聞きに戻る勇気もなくて、私はホテルをも出てしまった。
「思ってたより早いね?」
「えっ?」
そんな私に声をかけてきたのは……全てを見透かしたような顔をする増田くん。
「ど、どうして増田くんが……?」
「……不倫現場を抑えようと思って」
「え?」
「ラブホじゃなくてビジホってところが悪賢いよね。いつもそうなの?」
「な、何が?」
「スルときはラブホいかないんだ?」
「っそ、そんなの増田くんに関係ないでしょ!」
自分でも驚くほど大きな声で言い返してしまう。
今まで表情を変えていなかった増田くんもさすがに驚いたのかきょとんとしたまま私を見た。
「本人に確認した? まあ、その様子じゃしてないよね」
「……か、確認しようがしまいが関係ないでしょ」
「そうやって逃げたまま、ずっと関係続けるつもり?」
思わず両手を握りしめる。
元はといえば、増田くんの言葉が原因だ。昨日の夜……あんなことを聞かなければ……。
「もう一度言うよ、西脇さんがしてることは不倫」
「っ! も、もういい加減にしてよ! 不倫だろうが増田くんには関係ないじゃない」
我慢の限界だった。思い切り増田くんを睨みつけながら精一杯の声を出す。
それでも我慢しきれず、私は更に言葉を続けた。
「私と彼のことは放っておいて!」
言い切り、増田くんを見ると何かを考えるように口元に指を当てている。
そうしてゆっくりと言葉を紡ぎだした。
「……じゃあ、不倫のこと黙ってるから頼み事聞いて」
「頼み事……?」
怪訝そうに聞き返すと、素直に頷いてみせるのだ。