あの家から、とうとう逃げ出してしまった。
もう後戻りできない。
松宮
「痛む場所ない?怪我してるのに随分と無理させたな」
美咲
「うん、大丈夫」
美咲
(無理をさせたのは、私……)
ついさっきまでいた華やかで豪華なあの屋敷は、私にとって深い洞窟のような暗闇
牢獄だった。
そこから救いだしてくれたのは、ずっと忘れられず想いつづけた初恋の人、松宮浩太。
こんな夢みたいな幸せが舞い降りてくるなんて……。
それなのに、不安で不安でたまらない。
あの家で感じた闇より、もっと深い闇に落ちていく
そんな気さえする。
松宮
「絶対に、後悔させない」
この人についてきた事を、私は決して後悔しない。
でも……。
この人は、いつか自分の行いを後悔する、そんな想いが私の心を支配していた。
午前中の診察を終えた惣一朗が、妙に明るい調子で理事長室の扉を開けて入ってくる。
惣一朗
「診察終了後、松宮先生が挨拶まわりをすると聞いていたのですが、姿が見えないんですよ」
芳恵
「惣一朗……」
惣一朗
「こちらに顔を出していませんか? 看護師が花束を用意して玄関で待っているんですが」
受話器を手に話す芳恵の顔面は蒼白だった。
芳恵
「今、鈴恵から電話があって…
あの女、とんでもない事しでかしたわよ」
惣一朗
「美咲が?美咲に何があったんだ!?」