一人っ子の私は、妹が出来たようで嬉しかった。
だけど、鈴恵さんにとって私は家政婦。
というより、奴隷のような存在だった。
鈴恵
「うちの家政婦なんだから私のハイヒール磨きなさいよ!」
美咲
「これ新品じゃあ?」
鈴恵
「口答えするなんて生意気!」
美咲
「きゃあ!」
靴に伸ばした私の手を、鈴恵さんのピンヒールが踏みつけた。
美咲
「痛い、やめて!」
鈴恵
「イヒッ、イヒヒッ」
手の甲には血が滲み、紫色の痣になっている。
美咲
「ひどいわ!」
鈴恵
「お母様は何でも私の言うことを聞いてくれるの。
あなたの父親の会社を潰すなんて簡単なんだから!」
鈴恵
「イヒッ、イヒヒ、逆らうと父親の会社の従業員路頭に迷うわよ。
ほら、棚の靴全部磨きなさい!」
美咲
「これ全部を?」
鈴恵
「また口答えしたわね!」
美咲
「痛いっ!」
鈴恵
「誰かに言ったらただじゃおかないから、早くおやり!」
膨大な量のお母様と鈴恵さんの靴。
ヒールで踏まれ腫れた左手は使えず、
片手だけで棚の靴を全部磨き終わると、夜は明けていた。
仕事に没頭していると嫌な事が忘れられる。
ひと段落すると、激しい手の痛みを思い出した。
美咲
「利き手じゃなくて良かった……」
包帯をとるとひどく腫れていた。無理して動かし過ぎたようだ。
松宮
「その手どうした?顔色も悪いし元気がないな」
美咲
「何でもありません…」
松宮
「見せてみろ、腫れてるじゃないか!」
松宮先生が私の手を取った時、後方から鈴恵さんの声がした。
鈴恵
「相変わらず仲がよろしいのね。
お姉さま、人妻になった自覚をお持ちになったら?」
いつの間にか、惣一朗さんと鈴恵さんがそばにいた。
松宮
「立川先生…!奥さんが、手に酷い怪我を」
惣一朗
「それはお世話になりました。美咲、手当しようか」
鈴恵
「松宮先生、鈴恵、新しい靴を下ろしてウキウキしてるの!
どこか出かけたいわ」
松宮
「今日は夜勤が」
(やっぱりあの靴、新品だったのね……)
鈴恵
「じゃあ、中庭でお話ししましょ」
松宮
「……少しなら」
遠ざかって行く松宮先生と鈴恵さんの会話が気になって仕方がない。