トメ
「ハナ、ハナ」
ハナ
「は、はい! なんでしょう、トメさん」
トメ
「ああ、いたわね。
掃除はいいから、買い物に行ってもらえないかしら」
ハナ
「買い物、ですか?」
トメ
「ええ、若旦那様に頼まれていたものがあって。書店へお願い」
ハナ
「わかりました」
若旦那様と話をしたあの夜。
私は弱音を吐いた。
そのおかげか、落ち込むことはまだあるけれど女中として仕事を続けていられる。
食堂でのお仕事は……まだ、させてもらえていないけど。
ハナ
「お買い物、行ってきます」
ハナ
「いつ来ても、ここは賑わってるなぁ」
お買い物には何度か出ているけれど、たくさんのお店に、たくさんの人のここはまだまだ慣れそうもない。
だけど、初めて東都の地を踏んだ時から比べれば、いくらかは都会人らしくなっているのかな。
お屋敷周辺の地理は覚えたし、買い物の仕方だって覚えた。
村に居る頃は……買い物なんてほとんどなくって、畑で出来た野菜を何かと交換してもらっていたばかりだから……。
店主
「こちらですね。はい、丁度」
ハナ
「ありがとうございます」
最初は、お金の渡し方すらわからなかった。
誰もがそんな私を好奇の目で見てた。
ここに暮らす人は知らないんだ。
未だに、物々交換で成り立ってる場所があることを……。