ハナ
「熱っ……!」
途端に顔へ降りかかった紅茶を拭い去る。
その時だった。
頭上から私は怒鳴りつけられたのだ。
紀美子
「何をするの!? 着物が紅茶でよごれてしまったじゃない!」
紀美子
「まったく……トメ! トメはいないの!?」
紀美子様が叫ぶように声を荒げる。
慌ただしくなる食堂内の中、私は浴びた紅茶に驚いたまま身動きが取れなかった。
ハナ
(私……転んだ……?)
そんなはずはない。
私は、紅茶を持って奥様の元へ行こうとしただけで……。
トメ
「いかがなさいました、紀美子様」
紀美子様の金切り声が止んだかと思えばトメさんが静かに食堂へ入ってくる。
紀美子
「この女中が勝手に転んで、あたくしの着物を汚したの」
トメ
「まあ、そんなことが……申し訳ございません。紀美子様」
紀美子
「これだから嫌なのよ、新入りって。トメ、この女中が使い物になるまでは、あたくしの前に出さないようにしてちょうだい」
ハナ
「っ……」
紀美子様の言葉に、紅茶の熱さも忘れ私は息を呑んだ。
紀美子
「よろしくて? あなたがあたくしの前に出ることは金輪際ないことになるかもしれないのよ?」
紀美子
「あたくしの言っている意味、理解出来てるかしら?」
紀美子様はかがんで、未だ立ち上がれない私を見てニヤリとした。