ハナ
「あ、あのっ……!」
もごもごと、直哉さんの胸の中で声を上げると、頭上に柔らかな息がかかった。
直哉
「ハナちゃんが、あんまりにもいじらしくてさ。ついつい抱きしめちゃった。ごめん」
直哉
「……オレね、ハナちゃんみたいな子を守る活動してるんだ」
ハナ
「え……?」
直哉
「オレは、ハナちゃんの正義の味方だよ。あんたを守るサムライってとこかな?」
ハナ
「さむ……らい?」
直哉
「なーんて、時代錯誤だね。……あんたにとって、この上京がいい思い出になるといいんだけど」
ハナ
「……?」
直哉
「あ。ヤベ。あいつらまだ駅にいやがった。
しょうがない。逃げるしかないかな」
直哉
「じゃあね、ハナちゃん。また」
私を解放した直哉さんは、逃げると口にはしたものの悠長に口笛をふきながら人混みの中へと消えていった。
ハナ
(変な人……)
消え行く直哉さんの背中を見ながら、漠然と湧きでた感想。
私みたいな子を守る活動、なんて言っていたけれど……何者なんだろう?
ハナ
「いけないっ」
流れるように行き交う人々を避けながら、はっとして出口を見た。
すぐにお屋敷へと向かうように言われていたのに、汽車がついてから数十分、私は駅にとどまったまま。
ハナ
(急いでお屋敷へ向かわないと!)
焦ったまま出口へ向かえば、たくさんの人に肩がぶつかり、まるで下手な踊りでも踊っているかのように私は身を捩らせていた。