パーティの片づけをしていた私たちの耳に、言い争う声が聞こえてきた。
遥香
「嘘つかないで! またあの女のところへ行くつもりなんでしょう!?」
真野
「加々美社長に女がいるってわけか。ますます面白くなってきたな」
真野さんがニヤリと笑う。
紗希
「……本当なのかな」
真野
「金持ちの夫に愛人がいるなんて、そんなのよくある話だろ」
紗希
(だけどこんな夫婦ゲンカを目の前で見るなんて……)
しかもその相手は、女性なら誰もが憧れる、幸せな結婚をしていると言われていたふたりなのだ。
真野
「あ、もしかしてあんた、けっこうショック受けてる……みたいだな」
紗希
「そんなことないよ」
真野
「嘘。あのふたりに憧れてたのに、って顔に書いてある。ジャーナリストの目をごまかせると思うなよ」
紗希
「誰がジャーナリストよ。ゴシップ狙いのパパラッチじゃない」
心の中を言い当てられて、腹立ちまぎれに言い返した。
真野
「まあ……そうだな」
軽いため息のような声。言い返してくる様子もない。
紗希
(いけない……あんなこと言うつもりじゃなかったのに……)
その間もリビングからは言い争う声が聞こえてくる。
遥香
「あなたの誕生日だからパーティも開いたし、私だっていろいろ気を使ったのよ」
加々美
「お前には何不自由のない生活をさせているはずだ。それくらい当然だろう」
遥香
「私のことを何だと思ってるの!?」
加々美
「不満があるなら出て行け。俺が何をしようと、口出しされる覚えはない!」
声を荒げた加々美社長は、遥香さんを振り切って出て行った。音を立ててドアが閉まる。
真野
「何不自由のない生活をさせてる……か。金持ちらしい言い草だな」
真野さんが皮肉な笑いを浮かべる。
真野
「あんたが抱いてたイメージの実像なんて、所詮こんなもんだ」
紗希
「…………」
当たっているだけに何も言い返せない。急に疲れを感じて、座り込みそうになった。
とにかく片づけに集中することにする。