華やかなパーティー会場の中央では、スーツ姿のお兄ちゃんが多くの人に囲まれている。
誰もが笑顔でお兄ちゃんの旅立ちを祝い、激励していた。
客A
「いやぁ、恵介君もずいぶんたくましくなったな! いつ跡をついでも大丈夫だ」
客B
「大学卒業してすぐにニューヨーク支社出向とは。これで園部グループは安泰ですな」
恵介
「ハハ、それはちょっと気が早いですよ」
重文
「甘いことを言っている余裕はないぞ恵介。アメリカに行っても、園部を背負って立つ気概を忘れるな」
恵介
「父さんまでそんな……。当主の座を譲る気なんか、これっぽっちもないくせに」
重文
「心構えのことを言っておるんだ」
恵介
「ったく、もっと気楽に送り出してよ」
また人の輪の中で笑い声が起こった。
そんな楽しそうな会場の中心から離れて、私は隅っこでオレンジジュースを飲んでいる。
真侑
(今日のお兄ちゃん、いつもと違う。なんだかかっこいいな……)
律子
「真侑、なんでこんな隅っこにいるのよ?」
真侑
「あ、お母さん……」
律子
「恵介さんと話してきたら? あんたもれっきとした園部の一員なんだから」
真侑
「うん……」
お母さんはそう言うけど、そんなに簡単なことじゃない。
お母さんの連れ子として園部家に入った私は、こんな時どうしても遠慮してしまう。
真侑
「もう少し人がいなくなってからにする」
律子
「あらそう。……それにしてもあの子、いい男に育ったじゃない」
真侑
「お兄ちゃんのこと?」
律子
「初めて会ったときは、おどおどしてるだけの子供だったのにね」
律子
「あの子、きっと成功するわよ」
真侑
「……」
お母さんはいつだってそう。
私の本当のお父さんと別れた後、何人もの男の人と付き合ったけれど、みんなお金持ちだった。
男の人の価値は、お金を生み出す能力があるかどうか。
常にそれだけを見て判断する。
律子
「あんたも、あれぐらいいい男捕まえなくちゃ駄目よ」
真侑
(私はお母さんとは違う……)
その時、一際高い笑い声が中央から聞こえた。
客C
「香奈さんも、恵介君と一緒に世界へ羽ばたくのね。素敵だわぁ」
香奈
「そんなことはありません。私は恵介さんを支えるだけですから」
お兄ちゃんの婚約者の香奈さん。
モデルをしているだけあって、自分がパーティーの主役のような派手な格好で、愛嬌を振り撒いている。
律子
「あらあら。あんたと違って香奈さんの方は、上流階級の振舞い方をよく分かってるみたいね」
真侑
「……」
真侑
「外の空気吸ってくる」
私はパーティー会場の雰囲気が気持ち悪くなって、外に出ることにした。