結局、直哉さんが帰っていたのはその日の夜だった。
いつもの調子で帰ってきた直哉さんに、どう切り出せばいいかわからずに、いつも通り夕食の準備をする。
ハナ
(聞いていいことなのよね……)
少し不安になりながら、漬物とお味噌汁を運ぶ。
と、そこには神妙な顔つきをしている直哉さんが座っていた。
直哉
「食事の前に、ハナちゃんに言っておきたいことがあるんだ」
ハナ
「え……ええ」
妙に落ち着いている声で、帰ってきたときの明るさはどこにもない。
なんだか胸がざわついて、漬物を置く手が震えてしまった。
直哉
「……やっぱり、食事の後にしようか。きっと、話は長くなるだろうし」
ハナ
「それは直哉さんにお任せします。あのでも、それって悪い話ですか?」
直哉
「悪い……どうだろう。でも、もしかしたらハナちゃんは俺のこと嫌いになるかもしれない」
ハナ
「え? あっ」
突然の言葉に、同様してしまった私は思わずお味噌汁をこぼしてしまう。指先にかかった熱いそれに驚き慌てて手を引っ込めると、直哉さんがすかさず私の手を取った。
直哉
「冷やさないと」
ハナ
「あ……」
すぐに水で濡らした手ぬぐいを私の指に巻きつけてくれる。
嫌いになるかもしれない、そんなこと言ったそばから直哉さんは私に優しくしてくれて……この人の気持ちが、全然読めない。
直哉
「ごめん、俺が変なこと言っちゃったから……」
ハナ
「い、いえ……」
直哉
「冷やしておいて、味噌汁、持ってくるから」
ハナ
「はい……」
いつも通りの直哉さんだった。
声も、表情も、行動も。
ハナ
(直哉さん、何を言うつもりなんだろう……)
昼間のことも気になって、頭の中はぐちゃぐちゃだ。