バルコニーに出ると、ひやりとした夜気が肌を撫でた。
イリス
(さすがにつかれちゃったな)
一休みしようと伸びをすると、夜の闇に紛れた辺りでのそりと影が動いた。
イリス
「し、失礼いたしました……!」
イリス
(人がいるなんて思わなかった。恥ずかしい……)
???
「いや、こちらこそ。驚かせてすまないな」
影が闇から光の辺る場所まで出てきた。
その顔には、見覚えがなかった。
ガタイがよく、ほどよく日焼けをしていて、最初の印象はまるで熊。
眼帯をしており、左目しか見えないが眼光も鋭く、こちらの気持ちまで見透かされてしまいそう。
イリス
(ゲストの方の顔と名前は一通り覚えたつもりだったけど……)
イリス
「まだ、ご挨拶をしておりませんでしたね。イリスと申します」
???
「知ってる。あんた今夜の主役だろ。俺はアルジルだ」
イリス
(アルジル……? そんな名前リストにはなかった……)
イリス
(アルジャン様に伝えたほうがいいかしら……)
私はちらりと大広間に視線を走らせた。