ロマンス小説『engagement~誓い~』<第5話>

←第4話へ

 

オーヴェルニュ家のものである、大きなお屋敷に到着したのは夜も深まってからだった。

イリス
(ここが……、オーヴェルニュ家……)

 

重厚な玄関扉が開かれると、メイドたちが恭しく頭を下げる。

 

サフィール
「ロッシュ。いま、帰った」

 

サフィール伯爵がロッシュと呼んだ男が私に冷たい視線を投げかける。

 

ロッシュ
「……サフィール様、この娘でございますか?」

 

私は自分の汚れた身なりを恥じた。

 

サフィール
「ああ。部屋を用意してやってくれ」

ロッシュ
「……はい。用意してございます」

 

執事頭なのだろうか。ロッシュと呼ばれた彼がメイドたちに指示を出す。

黒い執事服によく似合う黒髪にモノクルといったいでたち。

 

ロッシュ
「それより、サフィール様。領地に例の賊たちが……」

 

ロッシュ様がサフィール伯爵の耳元へ声をひそめる。

 

イリス
(……賊……?)

 

微かに、サフィール伯爵が眉しかめた。

 

サフィール
「わかった。執務室で聞こう」

メイド
「さあ、イリス様。こちらへ」

イリス
「……はい。ありがとうございます」

 

私は執務室へと急ぐサフィール伯爵の後ろ姿を目の端で気にしながら、メイドに促されて部屋へと案内された。

レコメンド
続きを読む
人気記事

こちら記事も人気です

モバイルバージョンを終了