オーヴェルニュ家のものである、大きなお屋敷に到着したのは夜も深まってからだった。
イリス
(ここが……、オーヴェルニュ家……)
重厚な玄関扉が開かれると、メイドたちが恭しく頭を下げる。
サフィール
「ロッシュ。いま、帰った」
サフィール伯爵がロッシュと呼んだ男が私に冷たい視線を投げかける。
ロッシュ
「……サフィール様、この娘でございますか?」
私は自分の汚れた身なりを恥じた。
サフィール
「ああ。部屋を用意してやってくれ」
ロッシュ
「……はい。用意してございます」
執事頭なのだろうか。ロッシュと呼ばれた彼がメイドたちに指示を出す。
黒い執事服によく似合う黒髪にモノクルといったいでたち。
ロッシュ
「それより、サフィール様。領地に例の賊たちが……」
ロッシュ様がサフィール伯爵の耳元へ声をひそめる。
イリス
(……賊……?)
微かに、サフィール伯爵が眉しかめた。
サフィール
「わかった。執務室で聞こう」
メイド
「さあ、イリス様。こちらへ」
イリス
「……はい。ありがとうございます」
私は執務室へと急ぐサフィール伯爵の後ろ姿を目の端で気にしながら、メイドに促されて部屋へと案内された。