ふと、外から聞こえてくる馬車の車輪の音に、勉強のために開いていた本から顔を上げる。
イリス
(来客の予定なんてあったかしら……?)
疑問に思いながら、従妹であるフリージアのほうへと視線を向ける。
私に気がついたフリージアも読んでいた最近話題の恋愛小説から目を離し、こちらに汚れたものを見るような一瞥をよこす。
フリージア
「いやらしい目で見ないでくださる? わたしくに何か御用でもあって?」
イリス
(いつものことだから、さすがにもうフリージアのこの態度には傷つかないなぁ)
イリス
(もうこの家に来て15年くらいになるけれど、最初に会ったときから変わらない……)
私の家はこれと言って活躍のない子爵の家だった。
しかし、両親がともにはやり病で亡くなり、屋敷が売られるとき、母の妹の嫁ぎ先であるこのモンベリアル家に引き取られたのだ。
今は一応、養女として、この家に置いてもらっている。