公園の前を通ると、夕方5時を告げるサイレンが鳴っていた。
子供達が、公園から駆け出すのが見える。
美咲
(みんな、お家に帰っていくんだ……)
惣一朗
「どうして、僕の電話に出ない」
私の前を歩いていた惣一朗さんが、突然、立ち止まった。
美咲
「ごめんなさい……」
惣一朗
「さっきだって、電話したんだ!」
あの部屋から出る時、慌てて携帯だけポケットに入れた。
携帯をとりだして見ると、充電が切れて電源が入っていなかった。
テニスボールと、こう君と一緒に映った写真が入ったあの箱は、置いてきてしまった……。
美咲
(あれをもって、立川家には帰れないわ……)
惣一朗
「僕は行きたくなかった…あの部屋に!でも、君が電話に出ないから……」
惣一朗さんは声を詰まらせ、それっきり話さなくなった。
美咲
「ごめんなさい、充電器持っていなかったから…
電源が切れてしまって……」
惣一朗さんは、背中を向けて立ち止まったままだ。
握った拳が、震えている。
その姿を、とても痛々しく思うのに……。
私は、その背中にすがることも、抱きしめることも出来なかった。
鍵が開いている事を不審に思いながら部屋に入ってきた松宮は絶望的な表情で手に持っていた大きな買い物袋を二つ、足元に落とした。
グシャ、ガタン、ガタン
大きな音をたて、買い物袋からカセットコンロに鍋、様々な食材が床に転がった。
落ちて割れた卵が広がって行く先に松宮がふと目を向けると、美咲が持っていた箱があった。
松宮は箱を開け、テニスボールと高校時代に一緒に映した写真を取り出した。
松宮
「美咲……」
笑顔で映る二人の写真を見て、松宮は、いつまでも佇んでいた。