*** 桜、 咲く *** 原作:紅
「今日は生姜焼きが食べたいな」と
言って圭太は朝、部屋を出て行った。
うん、と私は答え、彼といってらっしゃいのキスをする。
彼のシャンプーの香り、出際にする、私のオデコへのキスする癖…
いつも通りの日常だった。
私は狭いが、二人が使い易いように整った部屋を見回した。
ベッドの上に、彼のブルーのパジャマが無造作に置かれてある。
私は彼のパジャマを洗濯機へ入れて、スイッチを押す。
洗濯機が可動している間に、二枚のお皿と、お揃いのマグカップを洗う。
今日も天気がいい――青空
しかし、深呼吸する気にはなれなかった。
「分かってる、もう別れ話しはついてるんだから…来月には、何とか…」
昨夜、彼は私がお風呂から出ていたのに気付かないで電話をしていた。
陰から、彼の受け答えで――その時が来たのを知る私…
歳の差は12、私は40の派遣社員。勿論独身――。
掃除機をかけ、衣類をまとめているうちに4時過ぎとなった。
解凍済みの豚肉を生姜で焼いてラップをかけ、テーブルへ置く。
このテーブルで何度語り、笑い、言い合い、泣いたことか……
――最後の夕食は生姜焼きだったか…
置き手紙なんて、キザなことはしない。
あとで メールですませよう。
そろそろ、春スーツ、クリーニング仕上がっている 事も伝えておかないとな。
私は、ざっと、部屋を見回した。
スーツケースを引いて玄関で靴を履く。
外へ出る。
目の前の一本の桜がそろそろ咲きそう。
愛らしい、毎年、そう思っていた。
玄関ポストへ『カギ』を躊躇わず投げ込む。
ポトン という音が、私達らしかった。
*END*