【実録】なぜ?男は不倫をするのか?<男の本音シリーズ>

【実録】なぜ?男は不倫をするのか?<男の本音シリーズ>

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俺は倉本悟。35歳。デザイン会社に勤務する、デザイナーだ。
いまの会社に入社するまでには、ずいぶん苦労もした。
今は将来の独立に向けて、懸命に日々を過ごしている。

この文章は「男がなぜ不倫をするのか?」ってことについて、俺の視点で書いたものだ。
男がみんな俺のようだとは言わないが、少なくともそういうところはあると思う・・・
だから、女性のみなさんには心して読んでもらいたい。

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同じベッドで寝ているのに、ずいぶん長い事、妻の恵美には触れていない。

妻の恵美を抱かなくなってから、久しい。

最後に抱いたのは、いつだっただろうか。思い出そうとしても、正確な日時どころか、肌の温もりさえも、おぼろげにしか思い出せない。

俺たちは、三年の月日を共にしてきた。

恵美とは、お互いの友人の紹介で知り合った。

一目で、俺は、恵美に惹かれた。

彼女は、今までに俺が付き合ってきた、どの女性とも違っていた。

俺たちが出会ったのは、俺が二十八歳の時で、恵美が二十三歳の時だ。

彼女は、大学を卒業してから、一年しか経っていない女性とは思えないほど成熟していた。

口数は多くなかったけれど、俺が話す事に、しっかりと耳を傾けて、程よいタイミングで頷いてくれた。

 

恵美
「倉本さんは、素敵ですね。自分の好きな事を仕事にしてるなんて」


「そんなことないよ。まだまだ、食べていくだけで精一杯だから。余裕なんて全然ないし。周りには、もっとすごい奴らがいるよ」

恵美
「周りは関係ないですよ。自分をしっかり持っているのが、かっこいいです」

 

思いもよらない言葉だったので、俺は頬を紅潮させてしまった。

 


「森田さんだって、素敵だよ」

 

自然と、その言葉が出た。

それから、恵美と付き合う事になるまでに、時間はそうはかからなかった。

結婚までも順調だった。

だが、結婚すると、態度が豹変する相手がいるとは聞いていたが、恵美も、その例外ではなかった。

最近、恵美は、家事についての小言が増えてきた。付き合っていた頃は、自分から進んで家事をこなしていたのに。料理だって、毎日、違う料理が出てきていた。

俺だって、きちんと働いているのに。小言を言われる事は、気持ちよくない。家事の大変さは、俺だって理解しているつもりだ。


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恵美
「悟さん、食後のコーヒーは飲みますか?」


「ああ、お願いするよ」

 

俺は出勤前には、ブラックのコーヒーを飲んでから、出勤することが多い。

 

恵美
「どうぞ」

 

そう言って、恵美は、コーヒーカップを、わざとらしく音を立ててからテーブルに置いた。

 


「……ありがとう」

 

何かを言えば何倍にもなって、言葉が返って来るので、俺は何も言い返さなかった。最近、今までに増して、態度が表面に出るようになってきた気がする。俺は、熱めのコーヒーを、無理やり胃の中に流し込んだ。

 

恵美
「悟さん。この頃、帰りが遅い日が多いけど、そんなにお仕事が忙しいの?」


「ああ……。最近、大きなプロジェクトが動いていてね。社員総出でとりかかっているんだけど、なかなか思うように進まないんだ。まったく、疲れるよ」

恵美
「たまには、ゆっくりしたらどう? 久し振りに、一緒に旅行でも行かない?」


「そうだな……。今の仕事が片付いて、時間が取れたら考えるよ。恵美は、どこか行きたい場所はあるか?」

恵美
「そうね……。温泉がいいかな。都会の生活は疲れるから。田舎に行きたいわ」


「わかった。時間ある時に、いろいろと調べておくよ」

恵美
「お願いね。楽しみにしてるわ」


「じゃあ、そろそろ、会社に行くよ」

恵美
「はい、いってらっしゃい」

 

そう言って、恵美はキッチンに戻り、洗い物を始めた。俺は、ひとりで玄関に向かい、靴を履いて、小さな声で、「行ってきます」と言って、家を出た。


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会社は都内にあるデザイン事務所だ。

自宅からの通勤時間は、二十分ほど。自家用車で通勤している。

自分で言うのもなんだが、この年齢にしては、それなりに成功して、それなりの地位を築いてきたつもりだ。

でも、まだまだ、現状には満足できていない。上には上がいるのだから。

いつものように仕事がおして、昼食をとったのは、正午を三時間近く過ぎての事だった。

作業机から、外の景色を眺めていると、携帯電話が鳴った。

実からだった。実は、大学時代からの友人だ。よく、一緒に悪ふざけもした仲だ。

 


「おう、ひさしぶり!」

 

比較的、高めの声で、実は言ってきた。

 


「おう、久しぶりだな」


「突然で悪いんだけど、今日の夜って空いてるか? 実は、合コンがあるんだよ。ひとり急に来れなくなってさ。どうしても、後ひとり必要なんだ。お前、来てくれないか? 頼むよ」


「……、俺、一応、結婚してるんだぜ。知ってるよな? 合コンと言う名目の飲み会はまずいだろ」


「もちろん、知ってるよ。お前さー、むかし、俺の女を奪ったことあるだろ」

 

実は、また、その話題を切り出してきた。

 


「わかったよ。参加するだけだからな!」


「さすが、悟だな! ほんと、助かるよ」


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合コンの会場は、お洒落なダイニングバーだった。

三対三の合コン。

相手は、歯科衛生士の仲間だそうだ。実は、いったいどこで、知り合ってくるのやら。

俺の隣には、桂木加奈と言う、二十三歳の女性が座った。

ハッキリとした、垂れ目がちの二重で、小柄で、顔はモデルのように小さかった。

 

加奈
「はじめまして! 桂木加奈と申します。よろしくお願いします」

 

今どきの子にしては、きちんとしているな、という印象を受けた。

 


「倉本悟です。こちらこそ、よろしく」

 

そう言うと、彼女は、恥ずかしそうに微笑んだ。

 

加奈
「倉本さんは、お仕事は、何をされてるんですか?」


「俺は、デザイナーをしてるよ。まだまだ、たいしたことないけどね」

加奈
「そうなんですか! わたし、高校のとき、美術部でしたよ、って、プロの人からしたら、その程度、たいしたことじゃないですよね。すみません……」


「そんなことないよ。今は描いてないの?」

加奈
「はい……。いまは、ぜんぜん描いてないです。ほんとは、美大に行きたかったんですけどね……」

 

彼女は、そう言うと、俺から視線を逸らして、虚ろな瞳で何もない空間を見つめた。

 

加奈
「なんか、すみません。暗いですよね……。わたし」


「気にしなくていよ。君よりかは、一回りは年上だから。一応、立派な大人だよ」

加奈
「倉本さんは、優しいですね。ありがとうございます!」

 

彼女は、そう言って、グラスのカシスオレンジを一気に飲み干した。


しばらくしてから、彼女の様子がおかしい事に気付いた。

だいぶ、酔いが回ってきているようだ。

 

加奈
「くらもとさ~ん。のんでますか~?」

 

彼女は、なんとか椅子に座ってはいるものの、今にも崩れ落ちそうだ。

 


「ああ、飲んでるよ。桂木さんは、もう飲まない方がいいんじゃないか?」

加奈
「え~、まだまだ、これからですよ~。それに、桂木さんって呼び方いやだ~。加奈って呼んでくださいよ~」

 

最初の印象と、だいぶ違う事に少し驚いた。酒に酔うと、こうも変わってしまうとは。俺の鼓動は、そんな彼女を見て、少し速くなった。どうやら、これは、酒のせいだけではないようだ。

 

加奈
「くらもとさ~ん」

 

彼女は、俺の名前を呼びながら、俺の手を掴んできた。

 

加奈
「わたし~、手相占いできるんですよ~」

 

彼女は、そう言いながら、俺の手をまじまじと見つめ始めた。

 


「そうなのか」

 

彼女との距離が近くなって、彼女の香りがした。嗅いだ事のない香水の香りだった。

 

加奈
「はい! くらもとさんの~、手相は最高です! 何をしても成功します。わたしが、保証します!」

 

彼女は、頬を赤くして、力強く言った。

 


「そうか……。ありがとう」

 

俺は、戸惑いながら答えた。

 

加奈
「つぎは~、くらもとさんが、わたしの手相を見てくださいよ~」


「俺は、そんな事できないよ」

加奈
「いいから~、はい!」

 

そう言って、彼女は、俺の顔の目の前に、何も嵌めていない自分の手をひらひらして広げた。それと同時に、彼女の頭は、俺の肩に預けられていた。

俺は、すぐに周りを見渡した。他の人間は、自分達の話に夢中で、こちらの事など気にはしていない様子だった。

うなだれている彼女を、どうしていいかわからずに戸惑っていると、実が声をかけてきた。

 


「桂木さん、大丈夫?」


「かなり、酔ってるみたいだよ」


「そうだな……。そろそろ、お開きにするか」

 

実は、そう言うと、店員を呼び寄せた。

 


「みなさん! 今日は、これでお開きです。今日はありがとうございました。また、機会があれば、よろしくお願いします


「桂木さん、もうお開きみたいだよ。立てるか?」

 

そう呼びかけても、彼女は、「う~ん」と唸っているだけだ。いよいよ心配になってきたので、実に、彼女を送っていく事を伝えた。

 


「よろしく頼んだ」


「おう、無事に送り届けるよ」


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店の外に出ると、俺と桂木さん以外は、固まって駅に向かって歩き始めた。俺は、実が店でタクシーを呼んでくれたので、それを待つ事にした。

桂木さんは、何とか立ってはいるものの、強い風が吹けば、倒れてしまいそうだった。

俺は、みんなが見えなくなった事を確認してから、彼女の手を俺の肩に回した。

 

加奈
「みなさん、かえられたんですか~? くらもとさん、もう一軒、いきましょう~」


「何言ってるんだ。そんな状態で。俺が、自宅まで送り届けるから。住所を教えて」

 

そう言っても、彼女は、呪文のような言葉を呟いていた。俺は、仕方なく彼女のバッグから財布を取り出して、運転免許証の住所を見た。

その住所は、ここからはそう遠くはない場所だった。ちょうどタクシーが迎えに来たので、二人で乗り込んだ。

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「すぐ、自宅に着くからな」

加奈
「ほんとに、すみません~」

 

その顔を見て、一回り以上、年齢が違う彼女を可愛いと思い始めていた。タクシーの中でも、彼女は、相変わらず俺の肩に頭を預けていた。

俺は、思わず、その頭を優しく撫でた。その瞬間、恵美の顔が浮かんだ。彼女の頭を、後部座席のシートに置き直した。

 


「なにしてるんだ、俺は」

 

運転手に聞こえない程度の声で呟いた。

タクシーは、徐々に灯りの少ない通りに差し掛かってきた。

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「そろそろかな……。桂木さん! 自宅はこの辺りじゃないのか?」

加奈
「え~! もう、ついたんですか~。まだ、くらもとさんと一緒にいたかったのに~」


「そんなこと言って、大人をからかうもんじゃないぞ」

 

そう言うと、彼女は、伏し目がちになり、黙りこくってしまった。

 


「ついたぞ。さあ、降りよう」

加奈
「はい……」

 

彼女の自宅は、三階建てのマンションだった。オートロックもあり、女性が一人暮らしをするには安心できそうな建物だった。

 


「じゃあ、俺はここまで。後は、一人で大丈夫だよね?」

加奈
「はい……」


「じゃあ、おやすみ」

加奈
「きょうは、ほんとうにすみませんでした。ご迷惑をおかけしました」

 

そう言って、彼女は、両手で俺の右手を強く握ってきた。その手は、とても柔らかかった。

そして、上目使いで、何か物欲しそうな顔をしている。

俺は、思わず抱き寄せたくなった。

その瞬間、彼女は、握っていた手の力を緩めた。

 

加奈
「きょうは、楽しかったです。おやすみなさい」

 

彼女は笑顔でそう言って、小走りでマンションの中に入って行った。

彼女がマンションの中に入るのを確認してから、俺は家路に着いた。
 
 
 

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