【怪談】重過ぎる棺(3)妾を殺した正妻に起きた因果応報【芦屋道顕】(ページ2)

重過ぎる棺(3)妾を殺した正妻に起きた因果応報

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■妾の怨霊を鎮めるために行なってきたこと

屋敷でもっとも日当たりがよく庭に面した広い部屋を、生きた人間が使わずかつての妾の女を弔うための部屋にした理由についても、息子達は男に話した。

「これは母ではなく、先代の時代からの庭師に聞いた話ですが。妾の女性を直接絞め殺した5代前の正妻さん、僕達からすると曾曾曾祖母さんくらいになるのかな。その正妻さんは原因不明の喉の病気になって。喉の奥に腫れ物が出来て、何をしても治らなくてついに窒息死したんですよ」

【怪談】重過ぎる棺(3)妾を殺した正妻に起きた因果応報【芦屋道顕】

「現代医学ではまあ、咽頭がんだとかなんだとか、医学的に根拠のある病名も説明もつくんでしょうけど。当時はやっぱり『祟りだ』と一族も、使用人達も震え上がったそうで。だって、妾の喉を絞め殺したら、自分も喉をやられて窒息死でしょう、関連を疑うなというほうが無理な話ですよね」

「でも、正妻さんは長男が首に髪の毛が巻きついた不気味な死に方をしたあとも、何人か子供を産んだんです。そのおかげで僕達が存在するわけですが。でも、長男の死後に生まれた次男は3歳になるかならないかのときに、夜中に泣いて飛び起きるようになってしまったそうです。とても怖い夢を見て、目が覚める。「知らないおばさんに首を絞められる」と。それで、有名なお坊さんやら神主さんやら、はては得体の知れない祈祷師まで次から次へと呼んで、お祓いやら悪霊退散やらお札を貼るやら、いろいろやったと当時の記録にあります。家の財産の半分くらいなくなるんじゃないかという勢いで」

「だけど、次男の悪夢はおさまらず、あるとき医者に診せたら医者が首のアザを発見して」

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「正妻さんに『悪夢だと?奥さん、あんたがノイローゼで無意識で息子さんの首を絞めたりしてるんじゃないの?』なんて疑われたりもしたそうです。なんとも、生き地獄だったそうですよ」

「うちの一族は警察にも顔が聞いたから、妾とその赤ん坊を殺したことはお咎めなしになってしまった。お妾さんが、産後の情緒不安定で自分で自分の子供を絞め殺して自殺した、と事件記録にはあるそうです。これも、思うことがありますよね。お妾さんの死因をノイローゼで子供を絞め殺して自殺とでっち上げたら、今度は自分が同じことを疑われるという。因果応報ってあるもんですね」

「それで、正妻さんが本当に精神を病んでいるにせよ呪いがかかっているにせよ、このままでは次男の命も危ないと周囲はみんな危惧していたそうで。その頃、この事件の発端は当時の当主だけど、驚いたことに呪いなんてまったく関係ないかのように相変わらず飲み歩いていたそうですよ。だけど、次男の命の危機に直面してからは真剣に考えて、死んだお妾さんの実家に土下座しに行った。当然、すぐには許してもらえなかったけれど、まあお妾さんのご両親も娘がそういう立場だったことは知っていて、仕送りなんかも受けていたらしくてね」

「結局、慰謝料みたいな形でご両親があとの人生は遊んで暮らせるくらいのお金を渡したら、お墓のある場所を教えてもらえて、お墓参りは叶ったんだそうです」

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「ただ、お妾さんは親族からも『娼婦が私生児を産んだうえに変な死に方をした』なんて蔑まれていて、ご実家の先祖代々のお墓には入れてもらえず、先祖代々のお墓の立っている敷地の隅に小さな墓石があって、そこに眠っていると。墓石にはお妾さんの名前と、名前もつかなかった赤ん坊のことが記してあったそうです」

「当主はそれを見て『これじゃあ確かに浮かばれない。生前は良くしてやれなかったけど、せめてきちんと供養してやりたい』と強く思って、お妾さんの実家とお墓のある菩提寺に頼んで遺骨を引き取った。これも、たぶん本当に浮かばれていないお妾さんの霊がそうさせたんでしょうね」

続く。

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