【怪談】重過ぎる棺(2)老婆の数奇な人生と謎の部屋の話【芦屋道顕】(ページ2)

「それに、僕達の里親は一族の呪いのことを知っていて、だからこそ僕達を守るために実母や実家の存在を隠し続けていましたから。だけど、成人式を迎える頃だったかな。お節介な近所のおばさんが言ったんですよ。『◯◯さん(実母)も我が子の晴れ姿を見たいだろうに、不憫だねぇ。三人も息子に恵まれたのに、誰からもお母ちゃんって呼んでもらえないんだから』なんて。それで気になってしまって。聞いたらあっさり話してくれましたよ。僕達の本当の母親のこと、本当の出自のことを」

うむ、どこにでもいらぬお節介をする人はおるものじゃ。

■成人式の後で実家を訪ねた息子達が見た異様な光景とは

その話を聞いた息子達は、別々の家に引き取られたもののなぜか子供の頃から頻繁に会わせてもらっていた自分達が兄弟であることを知り、成人を迎えたからにはやはり実母に一度は顔を見せたいと、二人で話し合い、調べて判明した実家を訪ねることにした。それは近隣の村の大きな屋敷だった。

「里親はとてもいい人達でしたが、あまり裕福ではなかった。家も小さく、下に弟達もいて、里子とはいえ平等に扱ってもらったけれど、自分の部屋を持ったことがなかった。実の家は襖や木の戸で仕切られていたから音は筒抜けだろうけど、部屋がたくさんあって僕達は『成人したのを機に、ここに住ませてもらって自分の部屋を持ちたいな』なんて甘えたことを考えました」

「呪いなんて、迷信もいいところ。昔から名家ではたまにあったように、兄弟が多いと骨肉の争いが起きないように、長男以下は里子に出してしまう。呪いは、そのやり方の言い訳だろうとすら思いました」

「僕達が実家であるこの屋敷を初めて訪れたとき、母は驚きつつもやはり歓迎してくれました。だけど、屋敷の中を見てもいいけれど、奥の一部屋だけは立ち入るな、一通り見たら留まらずに帰れと言われたんです。住みたい、なんてとても言える雰囲気じゃなかった。だから、僕達は母には『はい、そうします』と答えて。だけど、母が目を離した隙に、その『奥の部屋』を見に行ったんです。見るなと言われるほど見たくなるのが人間じゃないですか(苦笑)」

「奥の部屋、と言っても暗い隠し部屋じゃありません。屋敷の南の庭に面した、屋敷で一番良い部屋です。そこは本来なら屋敷の女主人やその娘さんの部屋にするのがふさわしいような、明るくて広くて。部屋に足を踏み入れたら、使っていないのに真ん中のテーブルには立派な花瓶と花が飾られていて、鏡台には男でも見てすぐ分かる高級な海外ブランドの化粧品や香水がずらりと並んでいました。押し入れらしき襖を開けたら、そこには桐の箪笥が入っていて、好奇心で開けてしまったら、これまた素人でも分かる豪華で高そうな着物が」

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