【怪談】重過ぎる棺(2)老婆の数奇な人生と謎の部屋の話【芦屋道顕】

【怪談】重過ぎる棺(2)老婆の数奇な人生と謎の部屋の話【芦屋道顕】

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■三人息子を産んだのに誰一人自分を母と呼ぶことのなかった人生

葬儀に立ち会った男はさらに、生き残っている二人の息子から彼らの母、小さな老婆の数奇な人生の話を聞いた。息子達も、母を亡くした悲しみもあり奇妙な一族の運命を誰かに話したく、ただ「呪い」が関わるのであまりその方面に理解のない人々には話せないでいたそうな。しかし、オカルトに傾倒し葬儀関係の仕事に就いていたその男には話しやすかったのであろう。

「母の母、つまり僕達の祖母もやはり一族の娘で、兄が二人いたのですが二人とも里子に出して、祖母が家を継ぎました。うちは男が早死にする呪いを受けてからは、娘が継ぐようになり、婿を取りまた娘を持つことで、血を絶やさずに済むと考えるようになったんです」

「産まれた赤ん坊が男なら、すぐに里子に出せば命は助かることも分かって、呪いとはいえ対処法があってなんてことないな、と。産まれてすぐに里子に出されて苗字も変わった僕達は、祖母や母が直面していた恐怖には気付かずにいました」

「だから、僕達には赤ん坊のときに不思議な死に方をした兄がいたことも、首に長い髪の毛が巻きついていたことも、最初に聞かされたときは半信半疑でした。と言いますか、実を言うと赤ん坊の突然死なんて昔ですからよくあることで、実は母がうっかり目を離した隙に赤ん坊だった兄は何かのアクシデントで窒息死してしまったんじゃないかと。または、これは母には申し訳ないですが、呪いを気にし過ぎて精神的に病んでしまって、母自身が手をかけたのでは、なんて思ったりもしたんです。本当に申し訳なかった。赤ん坊のうちに里子に出されてしまったから、母のことを実の母だと知っても実感が湧かなくて。知らないおばさんの昔話を聞かされるようなものでしたからね」

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「それに、僕達の里親は一族の呪いのことを知っていて、だからこそ僕達を守るために実母や実家の存在を隠し続けていましたから。だけど、成人式を迎える頃だったかな。お節介な近所のおばさんが言ったんですよ。『◯◯さん(実母)も我が子の晴れ姿を見たいだろうに、不憫だねぇ。三人も息子に恵まれたのに、誰からもお母ちゃんって呼んでもらえないんだから』なんて。それで気になってしまって。聞いたらあっさり話してくれましたよ。僕達の本当の母親のこと、本当の出自のことを」

うむ、どこにでもいらぬお節介をする人はおるものじゃ。

■成人式の後で実家を訪ねた息子達が見た異様な光景とは

その話を聞いた息子達は、別々の家に引き取られたもののなぜか子供の頃から頻繁に会わせてもらっていた自分達が兄弟であることを知り、成人を迎えたからにはやはり実母に一度は顔を見せたいと、二人で話し合い、調べて判明した実家を訪ねることにした。それは近隣の村の大きな屋敷だった。

「里親はとてもいい人達でしたが、あまり裕福ではなかった。家も小さく、下に弟達もいて、里子とはいえ平等に扱ってもらったけれど、自分の部屋を持ったことがなかった。実の家は襖や木の戸で仕切られていたから音は筒抜けだろうけど、部屋がたくさんあって僕達は『成人したのを機に、ここに住ませてもらって自分の部屋を持ちたいな』なんて甘えたことを考えました」

「呪いなんて、迷信もいいところ。昔から名家ではたまにあったように、兄弟が多いと骨肉の争いが起きないように、長男以下は里子に出してしまう。呪いは、そのやり方の言い訳だろうとすら思いました」

「僕達が実家であるこの屋敷を初めて訪れたとき、母は驚きつつもやはり歓迎してくれました。だけど、屋敷の中を見てもいいけれど、奥の一部屋だけは立ち入るな、一通り見たら留まらずに帰れと言われたんです。住みたい、なんてとても言える雰囲気じゃなかった。だから、僕達は母には『はい、そうします』と答えて。だけど、母が目を離した隙に、その『奥の部屋』を見に行ったんです。見るなと言われるほど見たくなるのが人間じゃないですか(苦笑)」

「奥の部屋、と言っても暗い隠し部屋じゃありません。屋敷の南の庭に面した、屋敷で一番良い部屋です。そこは本来なら屋敷の女主人やその娘さんの部屋にするのがふさわしいような、明るくて広くて。部屋に足を踏み入れたら、使っていないのに真ん中のテーブルには立派な花瓶と花が飾られていて、鏡台には男でも見てすぐ分かる高級な海外ブランドの化粧品や香水がずらりと並んでいました。押し入れらしき襖を開けたら、そこには桐の箪笥が入っていて、好奇心で開けてしまったら、これまた素人でも分かる豪華で高そうな着物が」

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「そして床の間には有名な書家の作品なのか仏教のお経なのか分からないのですが、解読できない複雑な文字が書かれた掛け軸が。ただ、その掛け軸と不釣り合いなのがその真下に鎮座する日本人形と、その周りに子供を象ったような日本人形が5つ、いや6つかな。置かれていて。兜の飾りもありました」

日本人形

「だから、まだあまり情報がなかった僕達はもしかして呪いは嘘で、僕達を里子に出してこの家の財産を独り占めしたい姉か妹がいて、この部屋に住んで子供が5、6人いるのかと邪推したんです。だから、この部屋に僕達がいることに気付いた使用人のおばさんが慌ててやってきたときに、尋ねました」

「『この部屋、誰か女性が住んでいるのですか?』と。おばさんはそれには答えずに『ここはダメですよ。貴方達、命も危ない!』と泣きそうな顔で叫んで、僕達を部屋の外に追い出しました。そして、母が戻ってくると早速おばさんが告げ口をして。でも、そのおかげでその部屋の謎が解けたんです」

「その部屋は、かつてうちの一族の正妻に拷問を受けて殺された妾の女性とその子供を供養するために、本当は一族になりたくてなれなかった女性の魂を鎮めるために一番良い部屋を彼女の部屋、ということにして代々、儀式を続けているのだそうです」

続く。

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