【怪談】重過ぎる棺(1)長男が必ず命を取られる血筋の話【芦屋道顕】

【怪談】重過ぎる棺(1)長男が必ず命を取られる血筋の話【芦屋道顕】

重過ぎる棺(1)長男が必ず命を取られる血筋の話

久々の怪談じゃ。

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■一人暮らしの老婆の葬儀に立ち会った男の話

★息子達は入り婿で苗字が異なり「葬儀にも立ち会うな」が遺言状に

その老婆は昔の女性の標準的な体型であったやもしれぬが、背は150cmにも満たぬ小柄で、若い時はいざ知らず米寿を迎えた後の享年88歳で食も細くなり体は不健康ではなかったが痩せていて、肺炎で入院した少し前の記録では30キロ台前半の体重であったという。

【怪談】重過ぎる棺(1)長男が必ず命を取られる血筋の話【芦屋道顕】

老婆には実の息子が3人いた。長男は幼き頃に亡くなっており、残る2人の息子は息子でありながら家名を継ぐことなく、どちらも婿入りして妻の苗字を名乗っていた。夫は十数年前に亡くなっていて、葬儀のためになんとか息子達と連絡を取った。

しかし、老婆の世話をしていた福祉関係者によると、老婆は自分が死んでも決して息子達に連絡しないでくれ、しても葬儀には呼び出すなと念をおされ、なおかつ遺言状まであった。遺言状が預けられていた弁護士も葬儀の準備に立ち会ったため、これを知らされたが知らされたときはすでに息子二人も老婆の家に集まっていた。

★来てしまったものはしかたない。息子二人と遺品の整理

財産分与はすでに老婆の生前に済んでいて、骨肉の争いなどは発生しそうにもなく、葬儀業者のその男もホッとしたそうじゃ。そして納棺師が滞りなくご遺体を棺に納めると、あとは老婆が……。息子達にとっては実母が大切にしていたものを共に納めるため、屋敷内を見てまわることになった。

男は、このようなとき、身内を亡くしたばかりの遺族は気が動転していて訳のわからぬもの、燃えぬものを共に入れようとすることがあるため、息子達と共に屋敷内を歩きながらアドバイスをした。大切にしていた写真や手紙は孫がいれば祖母の想い出にとっておくべき、貴金属は火葬場の炉を傷めるので入れてはいけない、日記などは身内といえど他人に読まれたくないものゆえ、共に入れることが多いなどなどと。

★なぜ、婿入りして苗字を変えたのか?

今に比べてまだ後継ぎ、跡取りの概念が強かった時代のさらに古い考えの強い田舎町のこと。せっかく息子が二人もいるのに婿に出し苗字を絶やすのは不思議だと思うた男は、打ち解けてきてから年長の息子に聞いてみた。「奥様は一人娘、または長女だったのですか?」と。婿入りするならば、妻側が苗字を残すことにこだわる家で、それ以外の理由などまだ考えられなかった時代じゃ。適当にごまかされるか、詮索するなと怒られるかと思うていたら、案外とすんなりと、長男は不思議な話を聞かせてくれた。

その一族は何代にも渡って「男が長生きしない」のだという。そのため、息子が産まれたらすぐに里子に出すのが習わしだった。老婆はその家に産まれた跡取り娘で、代々の言い伝えを知ってはいたものの軽視していた。そのため、夫を婿取りし、最初の息子が産まれても里子には出さなかった。そのために、長男は赤子のうちに命を落としてしまった。昔は赤子の死亡率は高く、病気ならば悲しいけれど往々にしてあること、と慰める人々もいたであろう。しかし、その死に方が異様だったのだという。

「僕の兄(赤子のうちに死んだ)は、眠っている間に締め殺されたんです。凶器は分からずじまいだったけれど、そのときの警察の調べだと、手で締めたわけではないらしい。ただ、何か紐のようなもので締めた。だけど紐かどうかも判然としなかった。そして、首には母(老婆)のものでもなく、屋敷に出入りしている誰のものでもない長い髪の毛が数本、巻き付いていたのだと。だから、警察もこのあたりは迷信深いから、うちの家系の噂を知って捜査を手仕舞いしたんです。どうせ、犯人は見つかりっこないから」

どんな家系の噂なのか?好奇心に勝てず、男は尋ねた。兄が赤子のうちに亡くなって実質の長男となった彼はそのような質問にもはや慣れているのか、淡々と家系の因縁について話してくれた。

「5代ほど前の先祖なんですけどね。うちはご覧の通り(とても広い屋敷、大きな蔵もある。金貸しで財産を築いた)まあ、お金には困らなかった。だから男達は放蕩三昧で、本妻の他に妾が何人かいるのは当たり前だった。でもね、昔は筋を通してた。妾に子供ができれば産ませて、本家筋と同様とはいかないけど、財産も分けたし面倒もみた」

「でもね、5代前は本妻が怖い人だった。妾の一人がね、妊娠すると。納屋に連れ込んで折檻して。自然に赤子が流れると思ったら、これが丈夫だったのか、ある晩に誰も納屋にいないとき、その妾の女は一人で赤子を産んだんだよ。産声が聞こえたって、先代の日記に書いてあるんだよねえ。それで、その本妻が産声を聞きつけて鬼の形相でやってきて、妾の女が見てる前で、その赤子を手に持ってた紐で絞め殺したんだってさ。赤子は男の子だった」

「それから、妾の女の首にも紐をかけてね。その妾の女が死ぬ前に、本妻に物凄い呪いの言葉を吐いて。よく言うよね、末代まで祟るってやつね。未来永劫、この家の男子は酷い死に方をする、とね。その呪いが続いちゃってるんだよね」

続く。

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