『病院の花嫁~愛の選択~』<第7話>~惣一朗ルート~

『病院の花嫁~愛の選択~』<第7話>~惣一朗ルート~

第6話へ⇐

kana_byoushitsu

鈴恵さんがつくった借金を払いきれず、借金取りに催促されていると告げると、

心配して集まってくれた松宮先生をはじめとする職員達は思わぬことを言いだした。

 

松宮
「そういう事なら、問題が解決する間、給料減額でかまいません」

鈴木
「私も協力します」

婦長
「私も、といっても、息子が大学に入学したばかりで、数万の減額なら……」

美咲
「皆さん、ありがとうございます」

惣一朗
「問題が解決したら、必ずこのご恩はお返します」

 

集まった18人、全員が協力してくれるという。

良かった、何とかなるかもしれない。

 

芳恵
「その必要はないわ、職員に迷惑はかけられません」

美咲
「でも、お義母さま」

芳恵
「あてがあるの、あんな連中とは一刻も早く縁を切らなければ」

惣一朗
「誰に借りるんだ、母さん!」

芳恵
「あなたは心配しなくても、いい事よ」

 

お義母さまのこの表情、何か隠している気がする……

k_jimsyo_kaigi

理事長である芳恵が倒れた為、しばらくの間、私が代わりに経営に加わることになった。

 

美咲
「こんなに銀行の融資が?」

 

平和銀行の他に二社、多額の借入があったなんて……。

 

事務長
「かなりの額と思われるかもしれませんが、経営は黒字ですから問題ありません、この規模の病院ならどこもこんなもんですよ」

美咲
「そうですか」

事務長
「古くからの付き合いということもあって、金利も優遇されてますしね」

美咲
(金利……)

美咲
(そうよ、鈴恵さんの借金の金利はどう考えても異常だわ)

美咲
「事務長、金利の額って決まっているんですか?」

事務長
「一昔前は法外な金利がまかり通っていたようですが、この頃は、年利20%を超えると違法。
取り締まりの対象になるようです。例え町金、闇金のたぐいでも」

 

やっぱり、鈴恵さんの借金の金利はおかしい。

お義母さまも惣一朗さんも騒ぎが大きくなって、病院の名前に傷がつくことを一番恐れているけれど、
このまま要求通り払ってはいけないわ。

惣一朗さんは、人手が足りない分、休みも返上して勤務している。

私が、何とかしなくては……。


ryosuke_office_heya

この間の話し合いで、今後の連絡先にと、借金取りからもらった名刺の住所に行くと、小さな金融事務所があった。

 

美咲
(あった、坂出金融、ここだわ。若い男と並んで歩いてくるのは……
あの借金取り!隠れなくちゃ)

圭吾
「遺産もっとあると思ったのになぁ」

借金取り
「十分でっせ、2億もろて、残りの8千万は、毎週500万でっせ」

美咲
(これって、まさか鈴恵さんの借金の話?)

圭吾
「俺の身になれよ、一括なら、おさらばできたのに、あと何ヵ月も一緒にいないといけないんだぞ」

美咲
(この若い男、もしかして鈴恵さんの婚約者?)

借金取り
「我慢しーや、1円も貸してへんのに、何億も稼げるんでっせ」

美咲
(1円も貸してないですって!鈴恵さんは借金をしていないの?
早く帰って、惣一朗さんに知らせなくちゃ)

借金取り
「相手はびびって、完全に信じきっとる、とれるだけとって適当な所でおさらばせーばええ」

 

足音を立てないよう注意して、その場から立ち去った。

new_living_hiru

自宅に戻って、坂出金融で見聞きした話をすると、惣一朗さんは怒り出した。

 

惣一朗
「無茶するな!」

美咲
「この金利は違法よ、相手の要求通り渡しちゃいけないわ」

惣一朗
「相手は何をするか分からない連中だぞ!現にこの間だって、病院に…」

美咲
「ごめんなさい、探っているのがバレたら病院に迷惑をかけるとこだったわ……」

惣一朗
「違う、僕は君の心配をしているんだ」

美咲
「惣一朗さん……」

 

病院じゃなく、真っ先に私を心配してくれた惣一朗さんの優しさが嬉しい。

 

惣一朗
「しかし、1円も貸してないのに、何億も稼げるって言ったのは気がかりだな。鈴恵を呼んで話してみよう」

美咲
(鈴恵さん…取り乱さず聞いてくれるかしら……)


new_living_hiru

借金返済のめどがついたから、その相談がしたいと鈴恵さんを呼び出し、家族で話し合いすることになった。

 

鈴恵
「嘘ばっかり言いやがって!」

惣一朗
「冷静になれ!その男、知り合いの所で借りるって言ったんだろ?
それなのに、この金利は異常だ、男もグルと考えると説明もつく」

鈴恵
「きぃぃぃぃーー!圭吾を悪者扱いするな!」

美咲
「若い男は今時な雰囲気で、ホストみたいな人でした」

鈴恵
「……背はどれくらい、髪型は?」

美咲
「背はかなり高く、180㎝くらいで、
髪は肩ぐらいの長さの茶髪でした」

 

鈴恵さんの顔色が変わった。

 

鈴恵
「ふんっ、そんなの、世の中に五万といるわよ!圭吾じゃない!」

 

鈴恵さん、どこか強がっているように見える。

あの若い男、やっぱり、鈴恵さんの婚約者のような気がする。

だとしたら、鈴恵さんは、騙されている。

 

義父
「鈴恵を……たのむ……救ってやって……くれ」

 

救急車の中で、最後の力を振り絞って残した、義父の言葉が脳裏に蘇った。

 

美咲
「うちに来た借金取りがあの場で言っていた金額は、鈴恵さんの借金返済の額と同じ。
それに遺産の話も、そんな偶然てあるでしょうか?きちんと調べた方が鈴恵さんの為です」

鈴恵
「うるさい、うるさい、うるさい!」

 

鈴恵さんは飲んでいた紅茶を私にひっかけた。

 

美咲
「きゃあ!!!」

美咲
(熱くない?良かった、話している間に冷めてたのね)

惣一朗
「鈴恵!」

鈴恵
「帰るわ!」

芳恵
「帰るって、その男の所?だめよ、ここにいなさい!」

鈴恵
「うそつき女と同じ空気は吸いたくないの!」

 

芳恵が止めるのを振り切り、鈴恵さんは出て行ってしまった。

 

惣一朗
「大丈夫か? 美咲」

美咲
「冷めてたから、大丈夫。
ねぇ、惣一朗さん、警察に相談しましょ」

惣一朗
「……そうだな、あまり大事にしたくないが」

芳恵
「この件は、私が数日中に収めます!
警察ざたにするのは辞めてちょうだい! 病院の名前に傷がつくわ!」

惣一朗
「今日、病院で言ってたあてがあるって話か?どんなあてがあるって言うんだ」

 

芳恵は背を向けて、それ以上語らなくなってしまった。

 

美咲
(一体、何を隠しているの?お義母さま……)

ryosuke_office_heya

深夜に集まり、圭吾が、坂出と借金取り、悪徳弁護士の田村と相談する。

 

圭吾
「鈴恵の奴、何か勘付いたかもしれない、お前らとはどういう知り合いだとか、金利が異常だ、とか言いだして」

借金取り
「一括回収といきまっか」

坂出
「田村先生の出番ですな」

悪徳弁護士
「書類の準備は万全です。すぐ実行できますよ」

 

男達は笑い合って、酒を酌み交わす。


byouin_loby_hiru

翌日、診療が終わり、日勤の勤務が終わろうとする時間。

坂出金融の借金取りとヤクザ風の男たちがやって来た。

 

美咲
(患者さんがいなくて良かった。返済日は週末なのに、どうしてこんな大勢で?)

惣一朗
「帰ってくれ! 期日まで日があるはずだ」

悪徳弁護士
「弁護士の田村です。
強制執行命令書に基づき、謝金の残り8千万。今から差し押さえを行います」

美咲
「差し押さえ?」

惣一朗
「そんな急に、残りは毎週500万払う約束をしたはずだ」

悪徳弁護士
「その書面はありますか?」

惣一朗
「それは……」

美咲
「そこにいる人と約束しました」

借金取り
「そんな約束した覚えありまへんなぁ」

悪徳弁護士
「話にならないですね、取りかかれ!」

芳恵
「一括で支払うから、帰ってちょうだい!あてはあるのよ」

悪徳弁護士
「今、返済して頂かないと、裁判所の執行命令が出てるんですよ。
そうだ、医療器具は1台数千万の物もありますね。
それを没収します、本当にお金が用意できたら交換しましょう?」

美咲
「医療器具を持っていくなんてひどすぎます!」

惣一朗
「治療ができなくなる!」

 

眩暈をおこし、ふらつく芳恵を惣一朗と私で支えた。

 

美咲
「お義母さま!」

 

いつの間にか、大勢の職員が集まってきていた。

 

惣一朗
「婦長、理事長を頼む」

婦長
「はい」

 

婦長と看護師に支えられ、芳恵は処置室へ消えていった。

松宮先生や鈴木先生、大勢の職員が、医療器具を運び出そうとするヤクザ達の前に立ちはだかってくれた。

 

松宮
「やめろ!」

鈴木
「小さな子供達も大勢入院している、医療器具を持ち出すのは許さない!」

ヤクザ
「うっせぇ!」

美咲
「そっちの病棟には、小さなお子さんがいるんです!
重い病で手術を終えたばかりの子供もいるの!」

 

昼に心臓の手術を終えたばかりの5歳の男の子の顔が浮かんで、病棟に向かおうとしたヤクザの腕を掴んだ。

 

ヤクザ
「このアマ! 離せ!」

 

ヤクザに突き飛ばされ床に倒れた。

 

美咲
(何とかして止めたい)

 

思わず足にしがみつくと、ヤクザは、手を振り上げた。

 

松宮
「やめろ!」

 

松宮先生が駆けてくる。

 

美咲
(殴られる……っ!)

 

と思った瞬間、ヤクザが地面に転がっていた。

惣一朗さんが、ヤクザに体当たりしていたのだ。

 

ヤクザ
「こんのやろう!」

悪徳弁護士
「まぁ、落ち着きなさい。暴力はいけません。慰謝料請求させてもらいますよ」

松宮
「今のは正当防衛だ。先に看護師の女性を突き飛ばしたじゃないか!」

鈴木
「そうだ、私も見た」

 

「私も」、「私も」と、悪徳弁護士をその場にいた職員が囲む。

こんな時に不謹慎かもしれないけれど……。

職員が一丸となっているのを感じ、胸が熱くなった。

 

惣一朗
「無茶ばかりして、心配かけるな」

美咲
「惣一朗さん……」

 

惣一朗さんの瞳が、優しい。

 

婦長
「美咲さん、理事長が呼んでるわ」

 

駆けながら、私を呼びに来る婦長を見て、芳恵に何かあったのかもしれないと、急いだ。

 

惣一朗
「母さんを頼む、ここは俺に任せろ」

美咲
「はい」


kana_byoushitsu

処置室に駆け込むと、芳恵は出かける準備をし、手に大きな鞄を持っていた。

 

芳恵
「ついてきて欲しい所があるの」

美咲
「でも、体の具合が」

芳恵
「そんな事言ってられないわ!治療ができなくなったら、私達以上に患者が困るでしょ!」

美咲
(真剣な表情…。
お義母さま、ちゃんと患者さんの事を想っている)

芳恵
「お金を準備するから1時間またせるよう、惣一朗に言ってちょうだい」

美咲
「わかりました」

 

惣一朗さんに事情を伝え、芳恵と一緒に車に乗り込んだ。

k_t_soto

車で二十分程飛ばすと、大きな屋敷についた。

 

美咲
(立派なお屋敷……表札は「月村」?
お義父様の葬儀に来ていた中に、この名前はなかったわ…。どんな知り合いかしら?)

芳恵
「すぐ戻るわ」

美咲
「はい」

 

芳恵は空っぽの大きな鞄を手に降りていくと、数分で戻って来た。

戻って来た時には、鞄は大きく膨らんでいた。

car_kojima

約束の1時間後まであと30分。良かった、十分間に合うわ。

 

美咲
(お義母さま、冷や汗をかいている……)

美咲
「窓開けましょうか?」

芳恵
「えぇ、お願い」

 

芳恵の汗をぬぐい、もってきた薬を飲ませた。

 

芳恵
「病院に着いたらこれを渡して、追い返してちょうだい。8千万入っているわ」

美咲
「あの、先ほどのお屋敷は」

芳恵
「あなたは知らなくてもいい事よ!惣一朗には…あの屋敷に行ったこと言わないで」

美咲
「わかりました……」

 

芳恵は疲れ果てた顔で目を瞑った。

byouin_soto_hiru

借金取り
「ほな、まいど」

 

芳恵が用意したお金を渡すと、坂出金融は借用書を返してくれた。

 

美咲
(やっと、これで縁がきれる……)


apart_heya_hiru

圭吾が携帯をかけながら、荷物をまとめる。

 

圭吾
「全額もらった?よし、事務所で落ち合おう。そうだな、しばらく海外でも行くか。
田村先生への謝礼を渡して、残りは俺の口座に入れといてくれ。その後、山分けだ」

 

鈴恵が入ってきて、驚いて電話を切る圭吾。

 

鈴恵
「何してるの?」

圭吾
「あー、えっと、しばらく離れて暮らそう」

鈴恵
「どうして?」

圭吾
「そのう、借金の取り立てが厳しいし」

鈴恵
「その問題は、うちの家が何とかしてくれるから心配ないじゃない」

圭吾
「これ以上、お前に迷惑かけられない」

鈴恵
「待って!」

apart_michi

荷物をもつ圭吾に、鈴恵が駆け寄る。

 

鈴恵
「待ってよ! 私も連れて行って!」

圭吾
「落ち着いたら、連絡するって!」

 

鈴恵が、圭吾の荷物を引っ張り、離さない。

 

鈴恵
「うそ、うそなんでしょ!」

圭吾
「えっ?」

鈴恵
「本当は、2億の借金なんてないんでしょ!?」

圭吾
「何言ってんだよ」

鈴恵
「あの金融機関とグルなんでしょ!」

 

反対車線にタクシーを見つけた圭吾が、乗り込む為に、道路を渡る。

 

圭吾
「あぁ、そうだよ、騙したんだよ!」

鈴恵
「お金だけでなく、結婚も嘘だったの? それは違うわよね?だから、一緒に私も逃げるわ!」

圭吾
「全部嘘に決まってんだろ!!
誰がお前なんかと結婚するか!離せ、キモいんだよ!」

鈴恵
「きぃぃぃぃぃぃー! 許さない!」

 

鈴恵が、圭吾の顔を両手でひっかく。

 

圭吾
「わぁぁぁ!!!やめろ!」

 

圭吾が、鈴恵をおもいきり突き飛ばすと、そこに車が―。

 

鈴恵
「ぎゃぁぁぁぁーーー!!」


new_living_hiru

美咲
「お義母さま、薬が効いてよく眠っているわ」

惣一朗
「今日は、大変だったからな」

 

本当に大変な一日だった。

ほっと一息ついて、惣一朗さんとお茶を飲むことにした。

 

惣一朗
「ワインといきたいとこだが、人手不足でいつ呼び出しがかかるか分からないからなぁ」

美咲
「そうね」

 

医師と看護師の増員ができたら、本当に安堵する日が訪れる。

それまで、皆で協力して乗り切らないと……。

 

惣一朗
「だが、母さん、どこで金を工面したんだ?」

美咲
「えっ? それは……」

美咲
(お義母さまは私を信頼してあの場につれて行ったのよ…。言ってはいけないわ。
でも、惣一朗さんに隠し事をするのは心苦しい…。どうしたらいいの……)

 

戸惑っていると、携帯の呼び出し音がなった。

 

惣一朗
「電話だ、病院からだ」

 

急患の連絡かしら?

 

惣一朗
「もしもし……鈴恵が?はい、すぐ行きます」

 

携帯を切った、惣一朗さんの顔が青ざめている。

 

美咲
「鈴恵さんが、どうかしたの?」

惣一朗
「車にはねられ、うちの病院に搬送されたらしい」

美咲
「大変! お義母さまに伝えてくるわ!」

 

急いで、芳恵の寝室へ向かった。

kana_byoushitsu

頭から血を流し、鈴恵さんは朦朧とした意識で呟いた。

 

鈴恵
「ううっ……だま、された……くや、しい」

美咲
「だまされた?」

美咲
(鈴恵さん…やっぱり……)

美咲
「鈴恵さん、この怪我あの若い男のせいなのね?」

 

鈴恵さんは小さくうなずいた後、意識を失った。

 

芳恵
「いやぁぁ、鈴恵!」

惣一朗
「しっかりしろ、鈴恵!」

美咲
「しっかりして、鈴恵さん!」

松宮
「脳内に大量の出血があります。今からオペに入ります」

芳恵
「松宮先生、お願いです!!鈴恵を助けてください!」

松宮
「最善をつくします」

 

松宮先生なら、大丈夫。きっと、鈴恵さんを助けてくれる。


byouin_heya2_hiru

無事に手術は成功したものの、鈴恵さんは昏睡状態に陥り、3日後にようやく目が覚めた。

目が覚めて2日目の朝。

病室に顔を出すと、鈴恵さんの顔色は少し良くなっている。

 

美咲
「鈴恵さん、おはようございます。気分はどうですか?」

鈴恵
「ざまあみろって思っているんでしょ」

美咲
「本当に助かって良かったです。大事な家族ですもの……。」

鈴恵
「ふんっ」

美咲
「これで、お義父様との約束が守れました」

鈴恵
「約束?」

美咲
「鈴恵さんを、必ず救うって」

鈴恵
「……今度は、私が救う番ね」

美咲
「えっ?」

鈴恵
「私のバッグは?」

美咲
「それなら、ベッドの下に」

鈴恵
「中を開けてちょうだい」

 

鈴恵さんのバッグを開けると、財布やメイク道具の他にテープレコーダーが入っていた。

 

美咲
「テープレコーダー?」

鈴恵
「お金だけじゃなく、まさか結婚まで詐欺だったなんてね」

 

再生ボタンを押すと、胸が痛くなるような会話が聞こえてきた。

 

美咲
(こんな酷いことを言われ、鈴恵さん、どんなに傷ついたかしら……)

 

プライドの高い鈴恵さんが、これを人に渡すのは相当辛いはず。

 

美咲
「これがあれば、詐欺として被害届が出せます。相手を捕まえられますよ」

鈴恵
「ふんっ、どうせバカにしてるんでしょ」

 

鈴恵さんの手を握りしめた。

 

鈴恵
「なにすんのよ!やだ、何泣いてるのよ、あんた」

美咲
「だって、こんなの、どんなに辛かったか……
鈴恵さん、本気で好きだったじゃないですか……」

鈴恵
「うるさいわね……」

 

鈴恵さんは、ポロポロと涙をこぼし、そっぽを向いた。

maigo

鈴恵さんの供述とテープレコーダーが結婚詐欺の証拠となり、藤崎圭吾は指名手配され、すぐに警察に捕まった。

ひっかいた際に付着した藤崎のDNAが、鈴恵さんの爪の間から採取され、

傷害容疑でも立件、逮捕されることになった。

藤崎が、今まで渡したお金を持ち逃亡したお蔭で、大半が手元に返ってきた。

この数ヵ月、あちこちの金融機関で借りたお金を一括で返済、危機を乗り越えた。

あの立派な屋敷から借りた分の8千万を芳恵に渡すと

「これは以前、うちが貸した分だからいいのよ」

この言葉が気にかかった……。

byouin_heya_hiru

惣一朗
「やっと平穏な日常が取り戻せたな」

美咲
「えぇ」

 

こんな風にゆっくりベッドに並んで話すなんて何か月ぶりかしら……。

 

惣一朗
「美咲、苦労かけたね」

美咲
「惣一朗さん……」

 

惣一朗さんが、優しく唇を重ねてくる。

この頃、惣一朗さんの胸に抱かれると、ほっとする。

すべてが丸く収まった。

これで、もう何も心配ない……。


new_living_hiru

久しぶりにのんびりした日曜。

遅めの朝食を終え、TVをつけると、鈴恵さんのニュースが取り上げられていた。

こちらからの要望で病院の名は伏せ、裕福な家庭の28歳、家事手伝いの女性として報じられているが

マスコミの問い合わせが自宅にも病院にも多く、うんざりしている。

事件の報道を見て、同様の被害を訴える女性が数名現れ、報道は過熱していた。

どうやら、結婚詐欺師の男が中心となり、金融機関、悪徳弁護士とつるんで悪事を働く詐欺集団だったようだ。

 

美咲
「チャンネル変えましょう」

惣一朗
「いや、まて」

 

TVを見つめる惣一朗さんの表情が険しい。

私も画面に目を向けると、いつもの報道と様子が違った。

a0011_000141

立川病院の前に立ち、レポーターが詐欺事件を伝える。

 

レポーターの男性
「驚きましたね、例の詐欺事件の被害者、大きな病院の娘だったとは。
この立川病院、月村代議士とも関係があったようです」

司会者A
「この病院、数か月前、一部週刊誌に金にまみれた黒い経営が取りだたされていますね」

司会者B
「富裕層を優先して行う治療方針なんて、金儲け主義の極みですよ」

new_living_hiru

惣一朗
「母さん、どういうことだ」

 

芳恵は、目を伏せている。

 

美咲
(あの立派なお屋敷、月村謙三の自宅だったんだ。
まずいわ、月村謙三は、賄賂や裏金で失脚寸前、あの人と関係があったなんて……)

芳恵
「病院を守る為だったのよ……」

 

芳恵は、小さな声で呟いた。

naoto_office

臨時理事会が開催され、院長である惣一朗さんと私も同席することになった。

芳恵は月村謙三に、幾度も献金を行っていた。

しかも、病院の資金を流用していたと警察の調べで発覚し、その責任を問われ、退任に追い込まれた。

後任は、芳恵の右腕だった常務の上塚氏が決まった。

 

美咲
(もう一人の常務、津川さんの方が亡き院長寄りの考えなのに……)

上塚
「これを機に、一族がこの病院に関わるのはやめにしませんか」

芳恵
「何を言いだすの!?」

上塚
「騒ぎを鎮め、信頼を取り戻すにはそれしかありません」

美咲
(惣一朗さんや私も病院から立ち去れっていうの?)

上塚
「次の臨時会では、後任の院長を選出致します、以上解散」

 

新理事長の突然の提案に、惣一朗さんと私は言葉を失った。
 

◆ 惣一朗とのハッピーエンドを見たい方はこちら♪
⇒【惣一朗ルート】ハッピーエンドへ
 

◆ 惣一朗とのノーマルエンドを見たい方はこちら♪
⇒【惣一朗ルート】ノーマルエンドへ

banner
↑こちらのタイトルの目次は此方へ
banner
↑その他のタイトルは此方へ