【短編恋愛小説】儚き夢の恋物語其の二

【短編恋愛小説】儚き夢の恋物語其の二

第四章

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それから一年半後、昭和十六年十二月に入ると、日本軍の真珠湾攻撃によって太平洋戦争、いわゆる第二次世界大戦が始まった。そして、会津の町にも赤紙が次々と届き男達は軍へと連れて行かれた。昭夫は軍隊に入ることは怖くはなかったが、ただ冨貴子のことが気がかりで落ち着かなかった。せめて、最後の挨拶だけでもしてから行きたいと考えていた。

そして、一年が経ち昭夫にもとうとう赤紙が届いた。祝いの席が設けられ、昭夫は声高々に「会津磐梯山は宝の山よ〜」と故郷の歌を唄った。冨貴子といる時にもよく歌っていたことを思い出し胸が熱くなった。

軍隊に入ると昭夫は陸軍への所属を命じられた。毎日の厳しい訓練と上官からの罵倒や暴力で身も心も折れそうにクタクタだった。そんなある日、訓練が終わり部屋に戻ると、驚くような噂を耳にした。磐見町の朱雀楼に倒産した呉服問屋の娘によく似た芸妓がいるというのだ。上官が朱雀楼を訪れて見かけたらしいという話だった。

昭夫は遊郭に遊びに行くような気質でも借金するような男でもなかったが、この時ばかりは別と、仲間達に事情を話してカンパしてもらい、そのお金をポケットに入れて朱雀楼へと向かった。もしかしたら冨貴子に会えるかも知れないという期待と、本当に身売りされていたら…という二つの気持ちの狭間で苦しみながら、磐見町まで走り続けた。

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