私の家とは違うインターフォンの音に違和感を覚えながら、涼介の家の玄関先に立つ。
同期で入ったはずなのに、涼介のマンションは私のアパートよりはるかに立派だった。
「ああ、ちゃんと来てくれたんだね?」
玄関を開けるなりそんな言葉。
当たり前だけど、スーツ姿とは違ってラフな格好をしている涼介に、不覚にも胸が高鳴った。
(顔だけはいいもんね)
だからこそ、憧れを抱いていたんだけれど。
でも今はそんなことなくて。浜本さんとの間を邪魔する嫌な男ぐらいの認識しかない。
「上がって。今お茶淹れる。コーヒーがいい?」
「おかまいなく」
話をしながら通されたリビングはきちんと整理整頓されて清潔感があった。
白を基調とした家具が並んで、男の一人暮らしとは思えないぐらい片付いている。
「はい、コーヒー。そう言えば、昨日はあれから浜本さんから連絡あった?」
テーブルに置きながらの言葉に、私は首を横に振った。
昨日はあれから連絡は無くて、だけど自分から連絡するにしても何を伝えていいかわからなくて、なるべく携帯を触らないようにしていた。
「……ビジホだったら仕事とか言い訳できるけど、ラブホじゃそうはいかないよね」
「……何が言いたいの?」
「割にあわないじゃん。泊まりでもないのに、ビジホ使うだなんて」
ソファに浅く座った涼介は気だるそうに背中をもたれかけさせる。
「ねえ、浜本さんが独身者だって信じてるんだよね? なら、さっさと聞けば?」
「そ、それは……」
手にとったコーヒーカップを思わず両手で握りしめてしまう。
「俺は何もからかうつもりで、浜本さんが既婚者だって伝えたわけじゃないよ? それはわかってるよね」
「…………」
「なんなら、今日、結婚してる証拠見せようか?」
「えっ?」
ドクンと飛び跳ねた心臓。思わず涼介に視線を合わせたそのとき、インターフォンが鳴った。
「あー、来たか。出迎えるから、真央も一緒に」
涼介に言われるがまま、私も玄関へ向かう。
(……とりあえず、今はご両親の前で彼女のフリすることに専念しよう)
鍵を開ければゆっくりと開かれるドア。
その向こうには、温厚そうな涼介の両親と、どこか暗い笑顔を浮かべる細身の女性がいた。
(誰……? この女の人……)