愛の代償の重さなんて、私は知らなかった。
知ろうとも、しなかった。
もし、知っていたら……私は幸せな恋が出来たのかな?
夜景の見えるレストラン、おしゃれなジャズが流れるバー。
彼とのデートはいつも、仕事が終わって終電までの短い時間。
だけど、それも仕方ない。彼、浜本和久さんはお仕事が忙しいのだから。
せっかくの休みは、私のために時間を使うより、体を休めてほしい。
浜本さんと知り合ったのは、三年前のこと。課長の代理で私、西脇真央が取引先に訪問したときのことだった。
そのとき、相手をしてくれたのが浜本さん。
それ以来、仕事でメールのやりとりをするようになって、いつしかプライベートなメールもやりとりするようになった。
私も、浜本さんも子供じゃない。男女の関係になるのに、そう時間はかからなかった。
「ねえ、真央ちゃん……もう、店出る?」
浜本さんが、グラス片手に私の手に自身の指先を絡めた。お酒のせいか、熱を感じるそれに応えるように私も指を動かす。
この仕草がある日は決まってホテルに誘われる。
別にそれが嫌なわけではないのだけれど、私も……そろそろいい年だ。いつまでも、こんな付き合いを続けてはいられない。
(もうそろそろ、結婚の話題を出してくれたっていいのに)
そんな気持ちが出れば思わずうつむいてしまう。何度か、私から結婚について触れたことがあったけど……その度に言葉を濁されていた。
今すぐ答えがほしいわけじゃない。だけど、不安なんだ。このまま、こうやって、ずっとずっと……平日の夜にしかデート出来ないままなのかって。
食事をして、体を重ねて、それでバイバイなのかなって。
若い頃ならそれでも良かったんだと思う。でも、私だって結婚に憧れる。浜本さんと家庭を築きたい。望めるなら、子供だって。
「浜本さん、もう少しお話してからでもよくありません?」
愛読してる雑誌には、『結婚にがっつく女は嫌われる』なんて書いてあったから、私から結婚の話題はなるべく出さないようにはしていた。
だけど……私が言わなかったらきっといつまでもこのままなんだよね。
絡めた指先に力をこめ、浜本さんへと顔を向けた。
――今日こそは……。
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