突然かかってきた電話に、佐倉さんが驚いた声を上げた。
佐倉
「……ひき逃げの犯人が捕まった?」
紗希
(あの時の犯人が見つかったの? 本当に?)
心の中でもやもやしていたものが、少し軽くなった気がして、じっと佐倉さんを見つめる。
佐倉
「……わかりました。吉岡さんには私から伝えておきます。ご連絡ありがとうございました」
佐倉さんは、電話を切ると改めて私に向き直る。
佐倉
「あの時の犯人、捕まったそうです」
佐倉
「まだマスコミには未発表らしいですが、多田という男が自首してきた、って」
紗希
「自首、ですか」
佐倉
「まあ、最近の捜査技術はすごいですし、逃げ切れないと思ったんじゃないですか」
紗希
(……だよね。ほんのちょっとの塗料からでも、車種が特定できるって聞いたことあるし)
佐倉
「これでもう、警察に話を聞かれることもないでしょうし、ともかくよかったですね」
佐倉さんと頷き合って、カフェの前で別れた。
これでもう、私とあのひき逃げ事件は何の関係もなくなる。
そう思いながら家に帰った私を待っていたのは―――。