『密会・セレブと呼ばれた女―栄光と欲望の裏側―』<プロローグ>

いつもと変わらない日常が、突然変わってしまうことがある。

たとえば、なにげない同じ週末。これから金曜の夜を楽しもうとしていた、そんな時に―――。

???
「吉岡さん、おつかれさま」

 

夕方のオフィスで声をかけられた。そろそろ仕事が終わる頃。

見なくてもわかる。声の主は、派遣社員の私を担当してくれている社員さんだ。

 

社員
「そろそろ時間なんで、タイムシートを書いておいてください。サインしますから」

 

毎日、定時に近くなると、こんな風に声をかけてくれる。

 

社員
「そういえば、吉岡さんの契約って、今日まででしたよね」

社員
「それじゃ、契約満了の書類にもサインしてもらえますか?」

 

言葉と同時に書類が差し出される。これにサインをすれば、3カ月の契約は終了。

今日でこの会社ともさようならということになる。

 

紗希
「いろいろとありがとうございました。お世話になりました」

 

形式通りの挨拶をして席を立つ。簡単な送別会でも……と言われたのを丁寧に断った。

 

紗希
(週末と月末が重なった金曜日に送別会なんて、かえって気を遣っちゃうし)

 

派遣社員として勤めた3か月。この会社はそれなりに居心地がよかった。

 

紗希
(あっさりさようならって、少し寂しい気もするけど、派遣社員ってそういうものだし……)

紗希
「短い間でしたが、お世話になりました。どうもありがとうございました」

 

オフィスを出る間際、まだ仕事をしている人たちに向って頭を下げる。

そして、私は週末の街へと歩き出した。

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