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さて、安産で生まれた玉のような娘は、元令嬢の妻のたっての願いで、自殺した昔の恋人の名に決まってしまった。しかし、男は女が自殺したとも知らぬゆえ、同じ名の娘を可愛がれば罪滅ぼしになるなどと、都合よく考えていた。
娘はすくすくと成長した。父親とも母親とも異なる、光に透けると輝く栗色の髪で、やがて目の下に小さなホクロが現れた。
そして、幼稚園に入る頃には、もうすっかり言葉も覚え、口達者でおしゃまな、普通のかわいい娘として皆から愛されていた。
とりわけ、娘は父親が好きだった。
あるときのこと。幼稚園で娘は家族の絵を描かされた。娘は、大好きなパパとママ、そして笑顔の自分の姿らしきものを描いていた。
しかし、幼稚園の先生がふと気になって、彼女に聞いた。
「◎◎ちゃん、確か、お兄ちゃんがいるよね?」
すると、娘は答えた。
「いないよ。家族じゃないもの」
先生は、幼い子供のことだから、きっとお兄ちゃんにいじめらたり、お兄ちゃんのほうがかわいがられているように感じていたりするのだろうと、それですねているのだと解釈して、あまり気にしなかった。
しかし、もう一つ気になることがあった。