かけがいのない、ほかに代わりはない
希少価値の存在だとわかる瞬間
おじさんはとても人懐っこい人だった。
よく電話をもらっては山へなにか採りに行こうと言う。
私は山にはさほど興味がないので、10回誘われて9回は行かないと言っていた。
それでもみょうがや筍、梨も採りに連れて行ってもらった。
おじさんは鉄砲撃ちが好きでよく私もやったらいいよと、
鹿をしとめる話を上機嫌になってしてくるのだが、
私はそのテの話がきらいで、いつも「もうー嫌だからやめてよ!」
というのに、次に会うとまたその話だった。
9/5に電話をもらい山へ行く約束をした。1年ぶりの梨狩りだ。
「忘れんごと、カレンダーにつけとかんね」と言われ、
9/19の敬老の日に印をつけた。
忙しく時間に追われていたりもしていたので、リフレッシュに飢えてきて
だんだん日にちが近づくごとに山が待ち遠しくなっていた。
いつもは前日になると明日が楽しみだよ~の確認メールが入るのにその時はなかった。
雨が降っていたので明日はどうなるのかと電話をしたが応答がない。
切ろうとボタンを押すと画面が真っ暗になって反応がなくなった。
しばらく呼び出し音を鳴り響かせ続け切ろうとしたがうまくいかない。
なんとか電源をオフにすることができた頃にはとうに50コールくらい鳴らせてしまった。
恥ずかしくなったのでお詫びもかねて明日のお伺いメールを送った。
めずらしく折り返しもメールもなかった。
明け方の3時にメールが鳴った。画面には
「〇〇の娘です。父、〇〇は13日に亡くなりました。突然のメールですみませんが、
お約束をされていたようなのでお知らせさせてもらいました。」