『わがままや、型にはまらないその自由さが
相手を生きている気分にさせる』 大庭みな子さんより
恋愛とはいかなるものか?
そのテーマだけで一生の文学に捜しつづけている人も少なくない。
どれを読んでも正解とも不正解ともいえない。
けれど、なぜか素敵だなと思うものもある。
ほっとして心が軽くなる。こんなお話はいかがでしょうか。
小説家、大庭みな子さんの父はまじめで家族を大切にする人。
母は正反対の気ままでヒステリックな性格。
その二人の不思議と相性がよかったことについて
子ども心に強く残っているものについて書かれたエッセイ
【とらわらない男と女の関係】から
今回は一緒に暮らす男女関係について考えてみたいと思います。
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子供の頃、父は毎週のように家族を連れて
どこかに出かけるのが好きだった。
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ピクニックに出かけると、太っていた母は、
はあはあ言って、丘の上などには登らず、
「あたし、ここで荷物と一緒に待ってるわ」と言い、
草原に坐りこんで動かなかった。
父は私と妹を連れて山に登り、戻ってくると、
母は羊羹を一本くらい平らげて、パラソルの陰でうとうとしていた。
「甘いものを食べると、ますます肥ってビタミンが不足し、体によくないよ」と
父はぶつぶつ言ったが、母は肩をすくめて、
「だって、あたし、我慢できないのよ、美味しいんですもの」
と言うのだった。彼女は年中お客様用にという口実で
女中に生菓子を買いにやらせ、自分が食べていた。
そしてとうとう糖尿病で死んでしまったから、
自殺したも同然だと子供たちに嘆かれるような母だったが、
どういうわけか、夫婦仲は非常によかった。
ヒステリーですぐ泣き喚き、夫婦喧嘩をすると
子供の前でも大声でしゃくりあげるような女を
どうして父は気に入っていたのか。
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出典:大場みな子【とらわらない男と女の関係】
このように身構えたりする必要なない
おたがい素でいられる、そんな
両親の間の空気があたりまえの子供は、きっと
自然とどんな相手にでも心を開けるのだろうな、、、そう思いました。
子どもに対する過剰な期待や独占欲をもってしまうのは
満たされない結婚生活を送っている両親の場合に
そうなりやすいものです。
健全な愛情を分かち合えない男女は
子どものアイデンティティに
無自覚に身勝手な妄想を描くことになるのですが
大好きな両親を救済したい一心で
そんな願いを叶えようと
子どもの心は縛りつけられたりもします。
大庭さんの文体からにじみ出る大らかさというか
枠のない自由で開かれた心にはなにかを溶かして変えていく
不思議な力を感じます。
そんなすてきな宝物を両親の関係性から感じとっていた大庭さんですが
それと同時に甘いものがやめられずに病気に侵されていく姿も
ただ黙ってながめているしかないということも
セットになってついてくることは
避けられないということも知ったのでしょうか。
杓子定規で面白味のないクソまじめな人間より、
ギャンブルにはまって身を持ち崩したり、〇〇依存症とかになったり、
どこかだらしなかったりする人のほうがどこか人間味があって
魅力的に映ったりします。
その人といると、
ホッと肩の力が抜けて
自分を飾る必要がなくなる。
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父は家庭を大切にし、謹厳実直で道徳的な人だったが、
それだけに母の気ままさに救われていたところもあったのであろう。
そういう母に耐えていたとか、諦めていたというのではなく、
かき立てられ、生き生きとしていた。
二人とも死んでしまってから、彼らの姿を思い浮かべるとき、
父は母と一緒にいさえすれば幸せな人だったと思うのだ。
たまに母がいなかったりすると、父の不機嫌さは家中を暗くして、
子供たちはやりきれなかった。同じ家にいても、
ちょっと姿が見えなかったりすると、
用があるわけでもないのに子供のように、い
ろんな部屋を覗いてみたり、庭をうろうろと探したりした。
父は医者だったが、母が死んでしまうと、
実に思い切りよくぱっと仕事をやめて、呟いた。
「お母さんがいたから、おれは仕事をしていた。もう何もしたくない」
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出典:大場みな子【とらわらない男と女の関係】
恋愛や結婚の魅力って
ふたりだけの世界
ふたりのルール
ふたりの価値観
でいられるところだと思う。
会社や組織と違って、
おたがいが許し合えるのならどうってことはない。
自分の嫌いな部分も案外あっさりと
受け流してくれる相手もいるのだと思う。
『ヴィーナス誕生』の絵は、ボッティチエッリがあまりにも有名だが
ニューヨークのメトロポリタン美術館で見た『ヴィーナス誕生』の絵に
描かれたヴィーナスは、三段腹で横になっていたのもあった。
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自分たちのやり方が世間の基準からはずれているとしても、
相手がそれでよいと思っていれば、どうとうことはない。
女が外へ出て働くのが好きなら、男を養うことを恥じる必要もないし、
養われる男が必ずしも無能というわけでもない。
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わがままに見える女が、押しつけがましく夫につくす女より
はるかに男に愛され、だらしなく見える男が、
案外女房にも惚れられているのは、
その自由さが相手を生きている気分にさせるからであろう。
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出典:大場みな子【とらわらない男と女の関係】
親は知らず知らずのうちに自分のあきらめた夢を
わが子に託してしまいます。
子どもに非凡さを望み英才教育に奮闘する親は
子どもが自分ではないものに必死でなろうとしている姿に
気づくことなく歓迎したりもします。
大庭さんのお父さまは、1対1の男女の愛を超えて
自分の目の届かないところまで巣立ち
広がっていく
卵が好きだったのかもしれない
【by なつめ】
次回は、
じぶんの太陽がキラキラ輝く魔法の習慣⑬【by なつめ】 『かけがいのない、ほかに代わりはない希少価値の存在だとわかる瞬間』です。